白川郷の合掌造り家に潜む恐怖と美少女ユーチューバーの呪い

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白川郷合掌造り家の幽霊

白川郷の幽霊に取り憑かれた十八歳の少女の怪異

岐阜県の山奥にある白川郷――その名を知らない日本人は少ないだろう。合掌造りの集落として世界遺産にも登録され、冬には雪が屋根を覆い、灯りがともると幻想的な光景が広がる。だが、観光客が帰った後、夜の帳が降りるとき、この村には誰も知らない「別の顔」が現れるという。

十八歳のエリナは人気のアニメ系コスプレイヤーであり、チャンネル登録者数四十万人を超えるユーチューバーだった。大きな瞳に明るい笑顔、そして完璧な衣装再現度でファンからは“天使のコスプレイヤー”と呼ばれている。
だが、可愛らしい見た目の裏では、常に再生回数と注目を追い求めるプレッシャーに追われていた。

「次はもっとインパクトのある場所で撮らなきゃ……」
エリナは自分の動画のコメント欄を見つめながらつぶやいた。そこに並ぶのは、「飽きた」「同じ衣装ばかり」「次は違う場所でやって」――そんな冷たい言葉たちだった。

「白川郷に行こうよ。」
そう提案したのはカイトだった。彼は映像編集を担当する友人で、少しオカルト好きでもある。
「あそこは景色も最高だし、古民家を貸してもらえる。和装のコスプレ撮影にぴったりだよ。」

「いいね! 春の白川郷ってまだ雪が残ってるでしょ? 赤い着物で撮ったら絶対バズるよ!」
ユイとミカも賛成し、こうしてエリナたち四人の一週間の撮影旅行が決まった。

――初日、午後五時。
村に到着すると、山々に囲まれた谷間の風景が彼らを迎えた。合掌造りの家々が点々と並び、かすかな焚き火の匂いが漂っている。
「わぁ……本当に昔の日本みたい。」
ユイがカメラを回しながらつぶやく。
「電線も少ないし、空気も澄んでる……」
ミカが深呼吸する。

宿泊先は村の端にある古い家だった。屋根は厚い茅で覆われ、木の柱が黒光りしている。中には囲炉裏、掛け軸、そして年季の入った仏壇。

「この家、すごく雰囲気あるね。動画映えするかも!」
エリナが嬉しそうに部屋を見渡す。
しかし、仏壇の横に置かれた古い写真に、ふと目を止めた。
白黒の写真の中、白い着物を着た若い女性が微笑んでいる。その後ろに立つ家族たちは笑っているが、その女性だけはどこか影があるように見えた。

「……この人、誰だろう。」
「もしかして、この家の昔の住人じゃない?」とカイト。
「ねぇ、ちょっと怖くない? 夜にこの写真見たら絶対出てくるタイプだよ。」ユイが冗談を言う。

その夜は特に何も起きなかった。囲炉裏を囲んで温かい鍋を食べ、笑い合いながら動画の構成を話し合った。
ただ、寝る前に外を見たエリナは、窓の外に立つ白い影を見た気がした。雪のように静かな姿。

「……気のせい、だよね。」
そのままカーテンを閉め、布団に潜り込んだ。

――二日目。
朝から撮影が始まった。赤い着物に狐の面をかけ、古い橋の上でポーズを取るエリナ。その後ろでは、春の雪解け水が流れる川がきらめいていた。
「はい、最高! もう一カット!」
カイトがカメラを構えたその瞬間、突風が吹き抜け、雪が舞い上がった。
「あっ……!」
エリナの着物の裾がめくれ、髪が乱れる。だがカイトは夢中でシャッターを切った。

撮影を終えて確認していると、カイトの表情が固まった。
「……おかしいな。」
「どうしたの?」
「このカット、後ろに人が写ってる。」

液晶画面に映っていたのは、エリナの背後――川辺に立つ白い影。長い黒髪を垂らした女性が、微動だにせずこちらを見つめている。

「……やだ、これ誰?」
「まさか、地元の人?」
だが、撮影中その場所には誰もいなかった。確認しても、足跡すら残っていない。

夜、宿に戻ってからもその話で盛り上がった。
「心霊写真じゃん、これ! サムネに使ったらバズるかも!」とミカが笑う。
「やめてよ、そういうの冗談でも言わないで。」
エリナは少し苛立ったように言った。

その夜、彼女は悪夢を見た。
暗い廊下を白い足がゆっくり歩いてくる。障子が軋む音。誰かのすすり泣き。
「……どうして……帰ってきたの……?」
その声に振り向いた瞬間、顔のない女が立っていた。

「きゃあっ!」
叫び声を上げて飛び起きると、部屋には誰もいなかった。だが、枕元には濡れた布が置かれていた。

朝になり、その布を見たユイが青ざめた。
「これ、昨日の川の水の匂いがする……」
カイトが真剣な表情で言った。
「エリナ、もしかして、何か触ったりしてない?」
「……してない。何も。」
だが、心のどこかで思い当たる節があった。撮影中、何気なく地面に落ちていた布のようなものを拾ったのだ。

その日の午後、村の資料館を訪れたとき、エリナは一枚の古い新聞記事を見つけた。
《白川郷の娘、行方不明の末、池で発見――白い着物姿のまま凍死》

「……これって、まさか……」
写真には、昨夜夢で見たあの女と同じ顔が写っていた。

夜。再びあの鼻歌が聞こえた。
「……ああ……あああ……」
廊下の奥から、湿った足音が近づいてくる。
懐中電灯を手にしたエリナが振り向くと、そこに立っていたのは白い着物の女だった。

「……返して……」
女はそう呟くと、すっと消えた。
床には、再びあの濡れ布が落ちていた。

恐怖に耐えかね、エリナは翌日、地元の老人に相談した。
「あの家には、昔“白衣のヨシノ”という娘が住んでおった。冬の夜、恋人を待って外に出たまま、雪の中で息絶えたんじゃ。」
島に伝わる呪われた霊の話としては、大久野島の幽霊伝説と恐怖の島の真実 ― 帰れない者たちの呪いのような例も知られている。
「じゃあ、その娘の霊が……?」
「ええ。彼女の遺品――布か髪飾りを持ち帰ると、取り憑かれると聞いとる。」

エリナは泣きながら答えた。
「……それを拾ってしまったかもしれません。」

その夜、彼女は決意した。布を元の場所に返すしかない。
月明かりの下、池へ向かう。水面は凍りかけ、冷たい風が頬を刺した。
「……返します……どうか、許してください……」
布を池に投げ入れた瞬間、水が弾けた。
白い手が伸び、エリナの足首を掴む。
「ああああっ!!」
引きずられそうになった瞬間、女の声が聞こえた。
「どうして……私の眠りを……邪魔したの……?」

エリナは必死に逃げ出した。だが家に戻ると、そこには誰もいなかった。
囲炉裏は冷え、部屋は暗闇に包まれている。
二階からミカの悲鳴が響いた。
駆け上がると、壁一面に黒い手形。ミカは震えながら呟いた。
「鏡に……写ったの。あの女が、私の後ろに……」

夜の静寂に怨霊が現れる恐怖といえば、診療所に現れた怨霊の手が奪う静寂の夜の話も思い出される。
翌朝、ユイの姿が消えていた。玄関には裸足の足跡が外へ続いている。池の方角へ。
警察に連絡しても、吹雪で村には誰も入れないと言われた。

夜。再びあの歌声。
「……帰れぬ者……皆、ここに……」
階段を降りると、囲炉裏の前に三人の友人たちが座っていた。
「ユイ!? ミカ!? カイト!」
喜んで駆け寄るエリナ。だが、彼らの顔は青白く、瞳は虚ろだった。
「……一緒に……いようよ……」
三人が同時にそう呟いた瞬間、囲炉裏の火が燃え上がり、白い影が立ち上がった。

「この家は……私のもの……」
女の霊がエリナに近づく。
「私と同じように……ここで眠りなさい……」
エリナは叫んだ。
「いや! 私は……生きたい!!」
すると、霊の表情が一瞬、悲しげに揺れた。
「ならば……この村を離れなさい。二度と……戻ってはならぬ。」

気づくと、朝だった。エリナは囲炉裏の前で倒れていた。外に出ると、雪が静かに降っていた。村人たちは「彼女一人しかいなかった」と言う。

彼女は東京へ戻り、動画を削除した。しかし一つだけ、どうしても消せない動画があった。白川郷で撮ったラストの映像。
そこには、エリナが笑顔で手を振る姿。だが、その背後の窓に、白い着物の女が立っていた。

コメント欄には今も書き込みが続いている。
「後ろの女、誰?」
「この動画、夜に見ると女が動くよ」
「再生中に、エリナの声じゃない誰かが“帰れない”って言ってる」

そして、動画の最後。
暗転する直前、エリナの顔が映る。涙を流しながら、何かを見つめている。
その背後で、白い手がそっと彼女の肩に触れた。

――それが、エリナの最後の動画だった。
白川郷の夜が再び雪に包まれるたび、村人たちは言う。
「また誰かが“あの家”に泊まったらしい」と。

そして今日も、YouTubeには新しいチャンネルが開設された。
プロフィールの名前は――「Erina White」。
動画のサムネイルには、白い着物の女が笑っていた……。

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