青木ヶ原樹海に消えた考古学者たちの謎と死の真相
青木ヶ原樹海で起きた幻の事故と幽霊の真実
富士山の北西に広がる青木ヶ原樹海。そこは、静寂と闇が混じり合う場所だった。風さえも息を潜め、鳥の声ひとつ聞こえない。26歳の考古学者・八代弥生(やよい)は、長年の夢であった青木ヶ原の地下遺構調査のため、学術チームと共に現地へ向かっていた。
「これが……あの樹海か……」
弥生はヘリコプターの窓から見下ろしながら、無意識に息を呑んだ。眼下には黒々とした森が、まるで生き物のようにうねりながら広がっていた。
隣に座るのは親友であり同僚の考古学者・里奈(りな)だった。
「やっぱり、すごいね……この森。昔から“帰れない森”って呼ばれてる理由が、なんとなく分かる気がする」
「日本には、他にも恐ろしい伝説が残る場所がある。たとえば、白川郷の合掌造り家に潜む恐怖と美少女ユーチューバーの呪いのように。」
「ふふ……怖がってるの?」
「まさか。でも、ここには何かがある気がする。歴史的な“何か”じゃなくて、“存在”そのものが……」
ヘリの中では、ほかにもパイロットや助手、カメラマンなど数人のスタッフがいた。
「現地での調査は3日間の予定です。天候が変わりやすいので、注意してください」
パイロットの声がヘッドセット越しに響く。
しかし、それが最後の平穏な時間だった。
突如、空が暗くなった。雲が渦を巻き、ヘリのバランスが崩れる。
「何だ!? 揺れてる!」
「エンジンが反応しない!」
警報音が響き、機体は大きく傾いた。弥生は咄嗟に里奈の腕を掴んだ。
「しっかり掴まって!」
「きゃああっ!」
……次に目を開けたとき、弥生は静寂の中にいた。
ヘリコプターは壊れていなかった。窓ガラスも割れていない。まるでふわりと森に着陸したかのようだった。だが、奇妙なことに、そこにいたのは弥生と里奈の二人だけだった。
「……他の人は? パイロットは? 助手たちは?」
「いない……。さっきまで確かにいたのに……」
二人はヘリから降り、周囲を見渡した。森は深く、どこまでも同じ景色が続いている。
「電波、通じないわね……」
「とりあえず、森を抜けよう。北の方に行けば、道路があるはず」
二人は方向を確認し、歩き出した。しかし、10分歩いても、30分歩いても、森の景色は変わらない。
「……変だわ。太陽の位置も、さっきと同じ」
「ねぇ、弥生……さっき通った倒木、これじゃない?」
振り向くと、確かに見覚えのある木があった。
「……戻ってる?」
「まさか……!」
何度も何度も方向を変えて歩いた。枝を折り、石を置き、目印をつけても、最終的に必ずヘリのそばに戻ってしまう。まるで森そのものが二人を逃がさないかのようだった。
その日の夜、仕方なく二人はヘリの中で夜を明かすことにした。
「……なんでこんなことに。夢でも見てるのかな」
「疲れたのよ。明日になれば、きっと何とかなる」
里奈が言いながら毛布を弥生に渡した。
しかし、夜が深まるにつれて、森の中から奇妙な音が響き始めた。
「……今の、聞こえた?」
「風じゃないの?」
「違う……何かが……歩いてる」
「背後から近づく足音のような気配がする……まるで、背後の足音のように。」
ヘリの外を覗くと、白い影のようなものが木々の間を漂っていた。人の形をしているが、顔がない。
「うそ……」
弥生は息を呑んだ。
「見ないで! 目を合わせたらダメ!」
里奈が叫んだ瞬間、影が一気に近づいてきた。窓に顔を押しつけるように、無表情の白い“何か”が覗き込んだ。
「ぎゃあああっ!」
弥生は悲鳴を上げ、ヘリの中に倒れこんだ。
ライトが一瞬消え、闇の中に誰かの囁きが聞こえた。
『……ここからは……帰れない……』
次の日、太陽が昇ると、あの影は消えていた。しかし弥生の心は冷え切っていた。
「昨日の……あれ、夢じゃないよね?」
「分からない。でも、私はずっと見張られてる気がする」
二人は再び歩き始めた。しかし、またしても森は彼女たちを拒むように、同じ場所へと導いた。時間の感覚も失われ、空の色が妙に白く濁って見える。
――二日目の夜。
今度は笑い声が聞こえた。子どものような、しかし何かがおかしい声。
「キャハハハ……ここで、みーつけた……」
「や、やめて……!」
ヘリのドアが勝手に開いた。中に小さな影が入り込み、弥生の膝に何か冷たいものが触れた。見下ろすと、土に汚れた手。
「助けて……さむいの……」
その子の顔は……顔がなかった。皮膚が滑らかに閉じていて、口も目も鼻もない。
「いやあああっ!!」
弥生は悲鳴を上げ、無我夢中で払いのけた。影は霧のように消えたが、座席には泥の手形だけが残っていた。
三日目の朝。
弥生の顔は疲れ切っていた。髪は乱れ、目の下には深い隈ができている。
「もう……無理かもしれない……」
「大丈夫。私がいる。絶対に一緒に帰るんだから」
里奈の笑顔だけが、弥生を支えていた。
しかしその夜、弥生は奇妙な夢を見た。
自分たちが乗っていたヘリが、実際には墜落していなかったのだ。パイロットは上空で進路を変更し、青木ヶ原への着陸を中止した。自分は何故か眠り続けていて、誰もその理由を説明できなかった――。
「夢……? それとも……現実?」
目を開けると、白い天井が見えた。
機械音。病室の匂い。弥生は病院のベッドの上にいた。
「……え?」
隣には白衣を着た男性が立っていた。
「八代さん、気がつきましたか? 事故じゃなくてよかったですね。青木ヶ原には結局行けませんでしたよ」
「え……でも、私……あの森に……里奈と……」
「里奈さん?」
医師が首をかしげる。
「はい。私の同僚で、ずっと一緒に……」
「八代さん……里奈さんは……1か月前に亡くなっていますよ」
「……なにを言って……るの?」
弥生は笑おうとしたが、声が震えた。
「そんなはず……昨日まで一緒にいたのに……」
医師は静かに首を振った。
「あなたが気を失ったとき、乗っていたのはあなた一人です。青木ヶ原には行っていません。私たちは途中で引き返したんです」
弥生の頭の中で、森の風景がよみがえった。あの冷たい手、あの囁き声、そして――里奈の笑顔。
その夜、病室の窓に“何か”が映った。
白衣の医師が出て行ったあと、静かな室内に風が吹き込む。
「……里奈?」
振り向くと、そこにいた。あのときと同じ服、同じ微笑み。
「弥生……無事でよかった」
「やっぱり、あなた……生きてたのね?」
「ううん……私は、もうずっと前に――」
その言葉の途中で、病室の灯りが一瞬消えた。
そして気がつくと、弥生の周りは再び深い森に変わっていた。
ヘリの残骸が、目の前にあった。
風が止み、闇の中から誰かの囁きが聞こえる。
『……ようこそ、“有と無の狭間”へ……』
弥生は震えながら振り向いた。そこには、泣きそうな顔で立つ里奈がいた。
「ごめんね……弥生……ほんとうは、あなたも……あの日、死んでたの」
「……嘘よ……そんな……!」
「でも、もう怖くないよ。だって、私たちは……ずっと一緒だから」
霧が立ちこめ、森の奥から数え切れないほどの影が現れた。
その中に、パイロットや助手たちの姿も見える。
弥生は静かに目を閉じ、最後の涙を流した。
――そして、青木ヶ原の闇が、すべてを包み込んだ。
翌朝、救助隊が通報を受けて現場を調べたが、ヘリの残骸も、弥生たちの痕跡も、何ひとつ見つからなかったという。
だが、ある隊員がこう語った。
「風の音の中に……女の声が聞こえたんです。“ここからは……帰れない”って……」

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