箱根の家でキッチンに現れた黒い着物の女と古い墓地の恐怖体験

Table of Contents
私のキッチンは古い墓地です

主婦ナナミを襲う黒い着物の霊と封じられた墓地の真相

箱根の山あい、観光客の賑わいから少し外れた古い集落。その奥にひっそりと建つ一軒家に、主婦のナナミは家族と共に引っ越してきた。横浜での生活は便利だったが、夫の仕事のストレス、都会の喧騒、育児の疲れが積み重なり、もっと静かな場所で暮らしたいと願ったのだ。

「あの家、雰囲気はあるけど、悪くなかったな。」
内見の帰り道、夫が言った。
「うん。キッチンも広いし、ミユキが走り回れるくらい庭もあるし……」

それが、悪夢の始まりになるとは、この時のナナミは想像もしなかった。

***

引っ越し当日。
まだ荷物の整理も終わらないうちから、ナナミは“違和感”に襲われていた。特に、キッチンだけは空気が重く、ほんのり湿った土の匂いがする。換気扇を回しても一向に消えない。

カタ……
冷蔵庫の近くから、何かが落ちるような小さな音がした。

「古い家だし、どこか緩いのね……」
そう思い込んでみるが、胸の奥に小さく沈殿する不安は消えない。

夜。
娘を寝かしつけ、夫は早々に仕事で外泊。ナナミは一人、キッチンで翌朝の準備をしていた。

すると――

カサ……
微かに布を引きずるような音。
気のせいだと自分を誤魔化し、まな板に向き直る。

しかし。

ス……ッ
背後を冷気が走った。

ナナミの動きが止まる。呼吸すら浅くなり、振り向く勇気が出ない。

彼女がそっと視線だけを後ろへ向けたとき――

そこに、女が立っていた。

黒い着物。長い髪。顔は青白く、瞳だけが異様に黒い。
その女は、床の一点を凝視している。

「……だれ?」
声は震えていた。

女はゆっくりと顔を上げ、ナナミを見つめた。

「返して……」

その瞬間、照明が激しく点滅し――女の姿は消えた。
ナナミは膝から崩れ落ちた。

***

翌朝。
娘のミユキは無邪気にパンを食べていたが、ふと口を止め言った。

「ママ、あのひと、きのうキッチンにいたね。」
「……あのひと?」
「くろいきもののひと。」

背中が凍りつく。

「ミユキ……何を見たの?」
「こっち見て、なんかいってたよ。かえして……って。」

娘が見たなら、あれはただの幻覚ではない。
ナナミは震える手で娘を抱き寄せた。過去に語られている 口裂け女伝説に取り憑かれた主婦ノモカの恐怖体験記 のように、家族を巻き込む怪異が現実に起きているのではないかという恐怖が胸を締め付けた。


***

ナナミは近所に挨拶回りをしながら、家の情報を探った。同じような怪異の体験談として語られている高知市の病院で若い看護師が遭遇した鬼の怪異と恐怖の真相物語のように、何か過去の事件が関係しているのではないかと不安が募っていく。たどり着いた古い民家の老婆は、ナナミの住所を聞くなり、表情を強ばらせた。

「あんた……あの家、買っちゃったのかい。」
「ええ……何かあるんですか?」
「キッチンだよ……あそこはね……昔、村の墓地だった場所なんだよ。」

ナナミの手から紙袋が落ちた。

老婆は続ける。

「昔、このあたりは大雨で土砂が流れてね。墓がみんな崩れてしまった。村の者は遺骨を回収しようとしたが……全部は見つからなかった。」

「それで……あの土地に家が?」
「そうさ。最初の家主は土地の事情を隠して売った。けれど……住んだ人たちはみんな長く居つかない。あの“黒い着物の娘”が出るからね。」

ナナミの心臓が跳ねる。

「黒い着物……」
「墓地に埋葬されていた娘だよ。若くして亡くなったそうだ。」

老婆はさらに声を潜めた。

「娘を埋めた場所はね……家の――キッチンの真下なんだよ。」

***

ナナミは恐怖に追われるように家へ戻った。娘はテレビを見ていたが、ふとキッチンに視線を向けて固まった。

「ミユキ?」
「……ママ、あそこ。ひとがいるよ。」

ナナミはゆっくりキッチンを覗いた。

何もいない。

だが、床の中央の“盛り上がり”が、昨日より明らかに高くなっていた。

恐る恐る床を叩く。

コン……コン……

空洞だ。

ナナミは震えながら工具を持ち出し、床板をこじ開けた。古い家だからか、釘は簡単に外れた。

床板の下からは黒く朽ちた木材。そして、その下には――

白く乾いた無数の骨。

その瞬間――背後から声がした。

「返してよ……私の場所……」

振り返ると、黒い着物の女が立っている。
今までで一番近い距離。

「こ、ここは……あなたの……?」

ナナミの言葉を遮るように、女は叫んだ。

「奪われたの! 壊されたの! 忘れられたの!!」

女の髪が逆立ち、キッチンの温度が一気に下がる。

更に、床の隙間から黒い影が伸び、ナナミの足首を掴んだ。

「やめてっ!!」
必死に逃れようとするが、足は床下へ引きずられていく。

娘の声が遠くで聞こえる。

「ママぁ!!」

だが、ナナミは声を出せない。影が喉を締め付けているようだった。

闇が視界を覆う寸前――

家中の電気が炸裂するような音とともに消えた。

静寂。

次にナナミが目を開けたとき、彼女はキッチンの床に倒れていた。
骨は消えていた。影も、女も。

だが、床には黒い着物の“袖の一部”が落ちていた。

***

翌日。
ナナミは娘を連れ、逃げるように家を出た。夫には詳しく説明せず、「ここにはいられない」とだけ告げた。

後日、家に戻った夫が電話で言った。

「キッチンの床、少しだけ穴が開いてるな。動物でも入ったのか? それに……おい、ナナミ……この袖みたいなの、なんだ?」

ナナミは震えて答えられなかった。

***

現在、その家は空き家のままだ。
だが、近所の噂によると――

夜になると、薄暗いキッチンの窓辺に“黒い着物の女”が立っているという。

そして、必ず決まった言葉を呟く。

「ここは……私の……墓地……返して……返して……」

朽ちた木の床の下には、今もなお、眠ることを許されなかった骨が静かに横たわっている。
ナナミが逃げ出したあの家で。

そのキッチンこそ――

“古い墓地”だったのだから。

コメントを投稿