幽霊が出る湖畔キャンプで女子高生が体験する恐怖物語

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幽霊が出ると噂される湖畔でのキャンプ

湖畔に現れる白い女の呪いと女子高生の運命

夏休みのある夜、東京郊外の女子高に通う美咲は、友人の奈々と彩香に誘われてキャンプに行くことになった。場所は人里離れた山中の湖畔。そこは昔から「夜になると幽霊が現れる」と噂される不気味な場所だった。

「本当に行くの? あの湖、昔溺死事件があったって聞いたよ」
美咲は躊躇いながらも、友人たちの楽しそうな顔に負けて頷いた。奈々は強気で明るく、彩香は少し臆病だが面白い話が好きで、三人は性格のバランスがよく、一緒にいると退屈しなかった。

湖に着くと、辺りはすでに夕暮れで、山に囲まれた湖面は薄紫色に染まっていた。鳥の鳴き声も消え、空気がどこか張り詰めているように感じられる。

「ここでキャンプファイヤーしよう! 雰囲気最高じゃん」
奈々が大声で笑うが、その声が湖に反響して不自然に伸びて聞こえた。美咲は背筋がぞくりとした。

テントを張り、焚き火を囲んで三人は夜を過ごす準備をした。夕食をとりながら奈々が怖い話を始める。

「この湖、昔ね、白いワンピースを着た女の人が恋人に捨てられて、ここで身を投げたんだって。夜になると湖から半身を出して、若い女を引きずり込むって噂…」

「やめてよ、そんなこと言わないで」
彩香は顔をしかめ、美咲も気分が重くなるのを感じた。

その夜、月明かりが湖面を照らし、霧がゆらゆらと漂っていた。美咲は水を汲みに行こうと湖の方へ足を運ぶ。すると――。

湖の真ん中に、白い何かが浮かんでいた。

「……え?」
それは確かに“人”の形をしていた。髪が長く、水に濡れて張り付いている。半身だけが水面から突き出ていて、まるでこちらを見ているようだった。

「奈々! 彩香! 来て!」
美咲が叫ぶと、二人が駆け寄ってきた。
「何? どうしたの?」
湖を見ると、そこにはもう何もなかった。波紋すら残っていない。

「気のせいじゃないの?」
奈々は笑って取り合わないが、美咲の心臓は早鐘のように鳴り続けていた。

深夜、テントの中で美咲は眠れずにいた。湖からかすかな水音が聞こえる。

「……誰か歩いてる?」
外を覗くと、霧の中に人影が立っていた。白い服の女。顔ははっきり見えないが、長い髪が風もないのにゆらゆらと揺れている。女はゆっくりと湖の方へ歩いて行き、やがて水の中へ沈んでいった。

「見た…確かに見た…」
震える声を押し殺しながら、美咲はテントに潜り込んだ。

翌朝、奈々が不思議なことを言った。
「夜中にさ、誰かの声で起こされたんだよ。“おいで”…って。夢かと思ったけど、湖の方から聞こえた気がしてさ」

彩香も青ざめた顔で頷いた。
「わ、私も聞いた。囁き声がして、湖から呼ばれてるような…」

三人は顔を見合わせ、言葉を失った。

昼間は何事もなく過ぎたが、夜になると再び湖が不気味な存在感を放ち始めた。焚き火の火が小さく揺れ、風の音と混じって女のすすり泣く声のように聞こえる。

「やっぱり帰ろうよ」
彩香が震えながら言う。だが奈々は首を振った。
「ここで逃げたら負けた気がする。大丈夫、幽霊なんていない」

その時、湖面から「ザバァッ」と大きな水音が響いた。三人は同時に振り向く。

湖の真ん中に、白い女が立ち上がっていた。肩から上だけ水面に出ており、濡れた髪が顔を覆っている。だが、その目だけはぎらりと光り、こちらを見つめていた。

「いやああああっ!」
彩香が悲鳴を上げた瞬間、女は一瞬で湖岸近くに迫っていた。まるで水を移動するというより、影のように距離を飛び越えてくるかのように。

「走って!」
奈々が叫び、三人は必死に山道を駆け上がった。後ろから水音と女の濡れた衣擦れの音が追ってくる。

やっとの思いで山道を抜け、街灯のある道路に飛び出したとき、追ってくる音はぴたりと止んだ。振り返ると、湖の霧の中に白い影が立ち尽くしていた。その影はゆっくりと水の中に沈み、完全に消えた。

美咲たちは何とか無事に帰宅したが、数日後、奇妙なことが起きた。

美咲のスマホに、見覚えのない番号から写真が送られてきたのだ。
そこには湖畔に立つ三人の後ろ姿が映っていた。そして背後の水面から、白い女の半身がにゅっと浮かび上がっている。

「……これ、いつ撮られたの?」
三人は再び声を失った。

それからというもの、美咲は夜になると必ず夢を見る。湖で呼ばれる夢だ。

「おいで……」
白い女の声が耳元で響き、美咲は目を覚ます。汗でびっしょり濡れた手を見つめながら思う。

――あの湖の呪いは、まだ終わっていないのかもしれない。

そして夏休みが終わる頃、再び三人は集まった。だが奈々の顔色は以前よりも悪く、彩香もやつれていた。
「ねえ、二人も夢を見てる?」
美咲が恐る恐る尋ねると、二人は無言で頷いた。

「やっぱり……」
湖で見た白い女は、ただの幻ではなかった。あの場所で出会ってしまった時点で、彼女たちはすでに逃げられない運命に巻き込まれていたのだ。

夜になると三人の耳に同じ声が響く。
「……おいで」
湖は遠く離れていても、確かに彼女たちを呼び続けていた。

そしてある日、奈々が忽然と姿を消した。

学校にも来ず、連絡も取れない。美咲と彩香が奈々の部屋を訪ねると、机の上に濡れた靴と湖の写真が置かれていた。写真の中で奈々は白い女と並んで立っており、まるで仲良く微笑んでいるように見えた。

「そんな……奈々……」
彩香は泣き崩れ、美咲は震える手で写真を握り締めた。

その夜、美咲は夢の中で奈々を見た。湖の中で微笑む奈々の隣に、白い女が立っている。二人はまるで同じ存在に見えた。

「次は……あなたの番」
女が囁き、美咲は悲鳴をあげて目を覚ました。

窓の外には、湖の霧が漂っていた。ここは東京のはずなのに――。

湖の呪いは距離を超えて追ってくる。
逃げ場など、もうどこにもなかった。

――それから数週間後。
彩香までも学校に来なくなった。美咲は恐怖と孤独に押し潰されそうになりながら、真実を知るために再びあの湖へ向かう決意をした。

夜の湖畔。満月が水面を照らす中、美咲は一人で立ち尽くす。風が吹かないのに、草木がざわめく。

「……奈々、彩香……」
その名を呼んだ瞬間、湖から二つの人影が現れた。奈々と彩香。しかし、その顔は生気を失い、瞳は真っ黒に濁っていた。

「一緒にいこう、美咲」
二人は笑いながら両手を差し伸べる。その後ろには、白い女が静かに立っていた。

「いや……私は……」
美咲は後ずさりする。しかし、足元から水がにじみ出し、まるで湖が彼女を引きずり込もうとしているかのようだった。

「逃げられない……」
白い女が微笑んだ瞬間、美咲の視界は暗闇に包まれた。

翌朝、湖畔を散歩していた地元の老人が、濡れた女子高生の靴を見つけたという。靴は三足。並べられるようにして置かれていた。

その湖では今でも、夜になると三人の少女が焚き火を囲んで笑い声をあげる姿が見えるという。そして、通りかかる者は必ず耳にする。

「……おいで」

――幽霊が出ると噂される湖畔でのキャンプは、三人の少女を永遠に閉じ込めたまま、今も誰かを待っている。

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