私の古い友達はろくろ首だった恐怖と長い首の幽霊の物語

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村に潜むろくろ首の秘密と長い首の幽霊の恐怖体験

夏休みが始まったばかりのある日、私は高校二年生の「美咲(みさき)」として、ずっと会っていなかった古い友達から手紙を受け取った。手紙の差出人は、小学校時代に親しくしていた「絵里(えり)」だった。彼女は今、山間の小さな村に住んでいるらしい。

「久しぶりに遊びに来て。泊まっていってほしいな」

その言葉に胸が躍った私は、迷わず彼女の誘いに応じた。数年ぶりの再会だ。けれど、この決断が私の運命を恐怖に導くことになるとは、そのとき夢にも思わなかった。

電車とバスを乗り継いで、ようやく辿り着いた村は、どこか時間が止まったような静けさに包まれていた。緑が濃く、蝉の声だけが耳をつんざくように響く。私は駅に降り立つと、絵里がすでに待っていた。

「美咲! 本当に来てくれたんだね」
「うん、絵里。久しぶりだね」

絵里は少し痩せたように見えたが、笑顔は昔と変わらなかった。私たちは彼女の家へと向かった。古い木造の二階建てで、周囲に人家は少なく、夜は真っ暗になりそうな場所だった。家の周囲には雑草が生い茂り、風が吹くたびに軋む音がした。どこか不気味さを漂わせていたが、私は無理やり心を落ち着けた。

夕飯をごちそうになり、私たちは久しぶりの思い出話に花を咲かせた。
「美咲、小学校のころさ、肝試ししたの覚えてる?」
「うん、あの神社の裏の森でしょ? 本当に怖かったよ」
「ふふ、あのときの美咲の泣き顔、まだ覚えてる」

懐かしい笑い声が夜に溶けていった。やがて布団を並べ、電気を消したとき、私は安らかな眠りにつけると思っていた。だが、深夜――

――ゴトンッ。

何かが床に落ちる音で目が覚めた。部屋は薄暗く、月明かりだけが障子越しに差し込んでいる。耳を澄ますと、かすかな「ずる…ずる…」という音が聞こえた。胸がざわついた。

恐る恐る振り向くと、そこには――

布団から上半身だけを起こした絵里の姿。しかし、その首は異様に伸び、私の顔のすぐ横まで迫っていた。

「……ひっ!」

私は悲鳴を押し殺し、布団をかぶった。震える心臓の鼓動が耳に響く。しばらくして、音は消えた。気のせいだ、夢だと自分に言い聞かせたが、冷や汗は止まらなかった。

翌朝、絵里は何事もなかったように朝食を用意してくれた。
「美咲、よく眠れた?」
「……う、うん。ちょっと暑くて目が覚めたけど」

あえて本当のことは言えなかった。彼女の笑顔が、どこかぎこちなく見えたのは気のせいだろうか。

昼間、村を散歩したとき、私は近所のおばあさんに声をかけられた。
「あんた、絵里ちゃんの友達かい?」
「はい。昨日から泊まってるんです」

おばあさんはしばらく黙り込み、低い声で囁いた。
「……あの子、夜は気をつけなされ」
「え……どういう意味ですか?」
「首が……普通の人と違うんだよ」

ゾクリと背筋に寒気が走った。

さらに彼女は続けた。
「昔からあの家には、ろくろ首の因縁があるって話さ。夜中になると、首が伸びて、眠っている人の魂を食べるって……。もう何人か村を出た人もいるんだよ」

私は血の気が引く思いで、慌てて話を打ち切った。だが心臓の鼓動は収まらず、汗ばむ手のひらを握りしめながら家へ戻った。

その夜。
再び、音がした。
――ずる、ずる、ずる。

私は薄目を開けた。そこには、やはり首を異様に伸ばした絵里がいた。だが今回は、ただ見ているだけではなかった。

長い首が天井まで伸び、蛇のようにうねりながら私を取り囲んでいた。瞳は血のように赤く光り、口元には鋭い歯が覗いていた。
「……みさき……逃げられないよ……」

耳元で囁く声。私は布団を跳ね飛ばし、廊下へ飛び出した。暗闇の中、障子の影に長い首がうねりながら追ってくる。
「やめて! やめてよ、絵里!」

私は必死に階段を駆け下り、玄関へ走った。しかし扉はびくとも動かない。背後から首が伸びてきて、冷たい感触が頬を撫でた。
「……ずっと一緒にいよう、美咲……」

その瞬間、目の前が暗転した。

――気づけば私は朝、布団の中にいた。夢だったのか? そう思いたかった。だが、首筋に残る冷たい痕が現実を物語っていた。

絵里は台所で朝食を作っていた。ふと見ると、彼女の首筋に赤黒い痣のような跡が浮かんでいる。
「絵里……その痣、どうしたの?」
「……ああ、これ? 生まれつきなの」

そう言って微笑んだ彼女の顔は、美しいはずなのに、どこか人間らしさを失っていた。

その日の午後、私は家の裏にある古い祠を訪れた。村人に聞いた話では、昔から首にまつわる祟りを鎮めるための場所だという。祠の中は埃まみれで、壊れかけた木札には「ろくろ首退散」と掠れた文字が刻まれていた。

「……本当に、絵里が……?」

信じたくはなかった。だが、夜ごと繰り返される恐怖が現実であることを否応なく突きつけられていた。

村の図書館で古い記録を調べると、恐ろしい一文が目に入った。
「この村の某家系は、代々ろくろ首の血を引く。夜に首を伸ばすとき、その姿を見た者は決して無事ではいられない」

震える手で本を閉じ、私は家に戻った。

その夜、私は決意していた。逃げるか、真実を確かめるか。

布団に入ったふりをして、私は眠ったように呼吸を整えた。そして深夜、予想通り音がした。
――ずる、ずる、ずる。

ゆっくりと目を開けると、首を長く伸ばした絵里がそこにいた。
「絵里……どうして……?」

勇気を振り絞って問いかけると、首が止まり、赤い瞳が私を見下ろした。
「……見ちゃったんだね、美咲」
「やっぱり……あれは……夢じゃなかったんだ」

絵里は哀しそうに笑った。
「私、もう普通の人間じゃないんだよ。夜になると……首が勝手に伸びちゃうの。止められないの……」
「どうして私を……脅かすの?」
「……美咲だけは……ずっとそばにいてほしいから」

その言葉は悲しみを帯びていたが、同時に狂気も滲んでいた。私は恐怖と哀れみの間で揺れた。

「お願いだから、私を解放して……」

そう叫ぶと、絵里の顔が歪み、首がさらに伸びて部屋いっぱいに広がった。蛇のように絡みつき、私は身動きが取れなくなった。
「一緒にいてくれるなら、解放するよ……永遠にね」

絵里の声は甘く、しかし背筋を凍らせるほど冷たかった。私は必死にもがき、祠で手に入れた木札を懐から取り出した。
「これ以上は……許さない!」

木札を掲げると、部屋の空気が震えた。絵里の首が苦しげに痙攣し、赤い瞳が私を睨みつけた。
「……美咲……裏切ったの?」

その瞬間、激しい衝撃とともに私は気を失った。

――目を覚ますと、朝だった。部屋には私一人。絵里の姿はどこにもなかった。

慌てて階下に降りると、家は不気味なほど静まり返っていた。食器も布団もそのまま、まるで誰も住んでいなかったかのように埃をかぶっていた。

「……嘘、昨日まで一緒にいたのに……」

私は震える足で村を飛び出した。背後から首のうねる音が聞こえた気がしたが、二度と振り返ることはなかった。

そして今もなお、夜になると耳元であの声が聞こえる。
「美咲……まだ一緒にいよう……」

私の古い友達は、確かに“ろくろ首”だった。あの村を出ても、恐怖から逃げられる日は来ないのかもしれない。

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