のっぺらぼうの幽霊と家に閉じ込められた女子高生の恐怖物語

Table of Contents
のっぺらぼうの幽霊と一緒に家に閉じ込められた

顔のない幽霊に囚われた少女の逃げ場のない体験

井上美咲(いのうえ みさき)は高校二年生。
春休みを迎えたある日、両親と一緒に郊外の新しい家に引っ越してきた。古い木造の日本家屋をリフォームした家で、外観は趣があり、どこか懐かしい雰囲気を持っていた。美咲は最初、この家を気に入っていた。木の香りが残る廊下、障子から差し込む柔らかい光、そして庭に植えられた桜の木。まるで古い小説の世界に迷い込んだようで、心が躍ったのを覚えている。

しかし、引っ越して間もなく、両親は海外出張に行くことになった。
「しばらくの間、一人で大丈夫か?」と父親は言った。
「大丈夫だよ。もう高校生だし。」美咲は笑って答えた。
母親も心配そうに「何かあったらすぐ電話してね」と言い残し、二人は日本を離れた。

最初の夜、美咲はひとりで過ごす家の広さに少し緊張していた。廊下の奥がやけに暗く、家鳴りの音が妙に大きく聞こえる。
「古い家だから、きっと木が軋んでるだけだよね……」
そう呟いて自分を安心させた。

だが、夜更けになると、廊下の奥から「コツ、コツ」と誰かが歩く音が聞こえてきた。
「……誰?」
恐る恐る振り返ったが、そこには誰もいなかった。廊下にはただ、冷たい空気が漂っているだけだった。

二日目の夜、洗面所で顔を洗っていると、鏡の中に奇妙なものが映った。
自分の背後に、もうひとつの人影。振り向くと誰もいないのに、鏡の中では確かに立っている。しかも、その影には――顔がなかった。
「な、何これ……」
心臓が跳ね上がり、美咲は洗面所から飛び出した。

次の日、友達の遥(はるか)にLINEで相談した。
「最近、変なものが見えるの……顔のない人とか。」
すると遥から返事が来た。
『のっぺらぼうじゃない? 昔からこの辺りに出るって噂あるよ。』
『顔のない幽霊を見ると、不幸になるって……』

「やめてよ……そんなの怖すぎるじゃん。」
美咲はスマホを握りしめたまま、居間の窓を見た。そこに、月明かりに照らされて立っている人影。
――のっぺらぼう。
目も鼻も口もない顔が、ガラス越しに美咲を見つめている。
「いやぁぁぁ!」
悲鳴を上げてカーテンを閉めた。

その夜、美咲は布団に潜り込み、耳を塞いで震えていた。だが、耳を塞いでいても聞こえてくる。
「スゥー……スゥー……」
誰かの息遣いが、すぐ傍で聞こえてくる。勇気を振り絞って布団を少しめくると、暗闇の中でのっぺらぼうがじっと覗き込んでいた。
「やめてぇぇぇっ!」
美咲は叫び声を上げ、気を失うように眠りに落ちた。

翌朝、玄関から外に出ようとすると、ドアがびくとも動かない。鍵は確かに開いているのに、まるで外側から押さえつけられているようだった。
「なんで……出られない……」
窓も同じだった。どんなに力を入れても開かない。
スマホで両親に電話をしようとしたが、画面には「圏外」の表示が出ていた。

「閉じ込められてる……?」
胸が締め付けられるような不安に、美咲は震えた。

数日後、美咲は夢を見た。夢の中で彼女は古びた和室に座っていた。そこに白装束の女が現れ、のっぺらぼうの面を差し出してきた。
「これは、この家の記憶。」
「この家に住む者は皆、顔を失う……逃げることはできない。」
その声は頭の中に直接響いた。

飛び起きて鏡を見ると、そこに映っていたのは――顔のない自分。
「いやぁぁぁっ! 私の顔が……!」
泣き叫びながら鏡を叩いたが、鏡の中の自分はただ無表情に立ち尽くしていた。

そのとき、背後から足音が近づいてきた。振り返ると、自分と同じ制服を着たのっぺらぼうが立っていた。
「来ないで!」
美咲は逃げようとしたが、足が動かない。のっぺらぼうはすぐ目の前まで近づき、無表情の顔を差し出した。

「これは……お前の顔だ。」
頭の中で声が響くと同時に、美咲の視界は暗転した。

気づくと、また布団の中だった。
「夢……だったの?」
だが夢とは思えないほど鮮明な記憶が残っていた。

そのときスマホが震え、母からメッセージが届いた。
『美咲、あなた今どこにいるの? その家はもう……誰も住んでいないはずなのよ。』
「……え?」
スマホが手から滑り落ちた。

次の瞬間、部屋のドアが「トン、トン」と叩かれる音が響いた。
「やめて……お願い……やめて……!」
美咲は布団を被り、必死に震えていた。だが、そのノック音は止まらなかった。

朝になっても玄関も窓も開かなかった。家の中は次第に暗く、冷たくなっていく。まるで外の世界と隔絶された異空間に閉じ込められているようだった。

日が経つごとに、美咲は鏡を見るのが怖くなった。映る顔が少しずつ曖昧になり、目や口がぼやけ始めたのだ。
「私……消えていくの……?」
涙を流しながら鏡を覆ったが、夜になると鏡から「トン、トン」とノックする音が聞こえてきた。

ある夜、ついに美咲は限界を迎えた。
「もう嫌……お願い、出して!」
玄関に駆け寄り、必死にドアを叩いた。その瞬間、背後から冷たい手が肩に触れた。振り返ると、そこには自分そっくりののっぺらぼうが立っていた。
「やめてぇぇぇっ!」
美咲の叫びは虚しく家に響き、やがてすべての音が消えた。

――数週間後。
両親が帰国して家に入ると、そこには誰もいなかった。家具や荷物はそのままだったが、美咲の姿も痕跡も一切残っていなかった。
ただ、廊下の鏡に制服姿の少女が立っており、その顔はのっぺらぼうだったという。

地元の人々は今もその家を「のっぺらぼうに閉じ込められる家」と呼び、近づこうとはしない。だが夜になると、家の窓から制服姿の影が覗いているのを見た者が後を絶たない。

――そして囁く声が聞こえる。
「もう……逃げられない。」

コメントを投稿