父の名で届く謎の荷物と消えた村の恐怖の真実

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父の名前で届く謎の荷物と白峰村の恐怖

 父が亡くなってから半年が過ぎていた。

 家の中は静かだった。

 かつては父の笑い声が響き、夕食の時間になると家族三人で他愛もない話をしていた。

 しかし今は違う。

 会社員として働く慶子は毎日仕事へ向かい、母は駅前で小さな雑貨店を営む。

 朝に家を出て、夜に帰る。

 それだけの日々だった。

 父を失った悲しみは少しずつ薄れていたが、その空白だけは埋まらなかった。

 異変が起きたのは休日だった。

 宅配便が届いたのである。

 宛名には父の名前が書かれていた。

「お母さん……見て」

「え……?」

 二人は顔を見合わせた。

 父は半年前に亡くなっている。

 それなのに荷物は確かに父宛だった。

 中には古い将棋の駒と昭和時代の玩具が入っていた。

 その時は昔注文した物が今になって届いたのだろうと考えた。

 しかし二日後。

 また荷物が届いた。

 そして五日後にも。

 すべて父の名前だった。

 中身は古い玩具や木彫りの人形、色褪せた置物ばかり。

 まるで誰かが意味もなく送り付けているようだった。

 慶子は配送会社へ連絡した。

 すると信じられない答えが返ってきた。

「注文者様ご本人の記録があります」

「そんなはずありません」

「申し訳ありませんがシステム上はそうなっています」

 父のスマートフォン。

 ノートパソコン。

 銀行口座。

 すべて確認した。

 しかし注文履歴はどこにも存在しなかった。

 その夜。

 父の書斎を整理していた慶子は、一冊の古い大学ノートを見つけた。

 表紙にはこう書かれていた。

『絶対に開けるな』

 中を開く。

 そこには父の字が並んでいた。

『荷物が届き始めたら私は死んでいる』

『最後の荷物だけは絶対に開けるな』

『奴は荷物と共に近付いて来る』

 慶子の背筋が凍った。

「何なの……これ」

 さらにページをめくる。

 そこには昭和五十四年の日付があった。

 父が二十歳だった頃である。

『白峰村には二度と近付くな』

『あの日、私たちは開けてはいけない箱を開けた』

 それ以降の文章は乱れていた。

 まるで恐怖の中で書いたように。

 翌日。

 慶子は白峰村について調べ始めた。

 しかし地図に存在しなかった。

 市役所にも記録がない。

 まるで最初から存在しなかった村。

 それでも古い新聞記事を探しているうちに、一枚だけ見つかった。

『白峰村集団失踪事件』

 記事は短かった。

 村民三十七人が一夜で消えた。

 捜索は失敗。

 事件は未解決。

 それだけだった。

 慶子は震えた。

 父の日記の日付と一致していた。

 さらに調べると、生存者が四人だけいたことが分かった。

 その一人が父だった。

 そして残る三人は全員死亡している。

 慶子は母へ尋ねた。

「お父さん、白峰村って知ってた?」

 その瞬間だった。

 母の顔色が変わった。

「どうしてその名前を……」

「何か知ってるの?」

 母は黙った。

 しばらくして口を開く。

「お父さんから絶対に話すなと言われていたの」

「何を?」

「白峰村では人が消えたんじゃない」

 母の声が震えていた。

「連れて行かれたのよ」

 その夜。

 四つ目の荷物が届いた。

 中には古い日本人形が入っていた。

 しかし異様だった。

 人形の髪が濡れていたのである。

 触ると冷たい。

 まるで今さっき水から引き上げたようだった。

「気持ち悪い……」

 慶子は箱を閉じた。

 その夜中。

 物音で目が覚めた。

 カタン。

 カタン。

 廊下から聞こえる。

 時計を見る。

 午前三時三十三分。

 慶子は恐る恐る部屋を出た。その時、まるで夜中に洗濯物を畳む幽霊が残した消えない約束の怪談のような不気味な気配を感じた。

 そして凍り付いた。

 居間に並べていた玩具が勝手に移動していたのである。

 円を描くように配置されていた。

 その中央に日本人形。

 さらに床には濡れた足跡。

 裸足の子供の足跡だった。

 それは玄関から続いていた。

 いや。

 違う。

 玄関へ向かっていたのではない。

 玄関から家の奥へ続いていた。

 まるで何かが入って来たように。

「お母さん!」

 慶子は叫んだ。

 母も飛び起きる。その姿を見た慶子は、まるで母の部屋から響く足音とラーメン屋に隠された家族の恐怖を思わせる不吉な予感を覚えた。

 二人は震えながら朝を待った。

 翌日。

父の日記の最後のページを見つけた。

だがそこに真相は書かれていなかった。

文字の大半が黒く塗り潰されていたのである。

読める部分はわずかだった。

『四人』

『箱』

『名前を書かれた』

『今は三人』

『次は私だ』

慶子は眉をひそめた。

意味が分からない。

ページをめくる。

しかし次のページも同じだった。

黒いインクで塗り潰されている。

まるで誰かが意図的に隠したように。

最後の余白にだけ走り書きが残されていた。

『白峰村を調べるな』

『見つけても入るな』

『私を信じろ』

慶子は日記を閉じた。

その瞬間だった。

パタン。

誰もいない廊下で何かが倒れる音がした。

慌てて飛び出す。

だが何もない。

ただ父宛てに届いた将棋の駒だけが床に転がっていた。

さっきまで箱の中に入っていたはずなのに。

 その日の夕方。

白峰村集団失踪事件と父が隠した秘密

 五つ目の荷物が届いた。

 箱の表面には赤い字。

『あと一つ』

 慶子は決意した。

「白峰村へ行く」

「駄目!」

 母が叫ぶ。

「行ったら帰れない!」

「でも終わらせなきゃ」

 二人は父の日記を手に山奥へ向かった。

 三十年前に地図から消えた村。

 そこには確かに廃墟が存在した。

 朽ちた家々。

 崩れた鳥居。

 誰もいない。

 しかし気配だけがあった。

 見られている。

 何百もの目に。

 やがて祠へ辿り着く。

 地下への階段があった。

 二人は降りた。

 地下には木箱が積まれていた。

数は分からない。

暗闇の奥まで続いている。

慶子は懐中電灯を向けた。

その瞬間。

息が止まった。

箱には名前が書かれていた。

だが村人の名前ではない。

見覚えのある名字ばかりだった。

宅配伝票に記されていた受取人の名前。

配送会社から聞かされた名前。

父以外にも荷物を受け取った者たち。

その全員の名前だった。

箱の山は天井近くまで積み上がっている。

何百人。

いや何千人かもしれない。

その中に父の名前もあった。

しかし慶子はさらに恐ろしいものを見つけた。

一番奥。

埃を被った木箱。

そこに書かれていたのは――

『慶子』

「まさか……」

 母が震えた。

「お父さんは……」

 その時だった。

 後ろから声が聞こえた。

「開けるな」

 父だった。

 振り返る。

 そこに父が立っていた。

 しかし顔は青白い。

 死人の顔だった。

「お父さん……」

「私はもう死んでいる」

 父は静かに言った。

「だが今日で終わる」

 意味が分からなかった。

 父は続ける。

「慶子……」

 父は苦しそうに笑った。

「まだ全部は信じるな」

「え?」

「日記も……荷物も……」

「何を言ってるの?」

「見せられているものが真実とは限らない」

「え?」

「私は三十年前からここに囚われていた」

 慶子の頭は混乱した。

 すると地下全体が揺れ始めた。

 最後の荷物が届いたのだ。

 誰もいないはずの祠の入口から箱が滑り込んで来る。

 勝手に。

 まるで生きているように。

 箱は父の前で止まった。

 蓋が開く。

 中は空だった。

 そう見えた。

 だが違う。

 箱の中には暗闇があった。

 あり得ないほど深い闇だった。

形は分からない。

見るたびに違って見える。

子供のようにも見える。

老人のようにも見える。

獣にも見える。

人にも見える。

いや。

見てはいけない。

慶子は本能的にそう感じた。

 闇の中から声が聞こえた。

 一人ではない。

 二人でもない。

 何十人もの声だった。

「返して……」

「まだ終わっていない……」

「名前を返せ……」

 父が震える声で呟いた。

「やはり始まったのか……」

「お父さん?」

「白峰村の人間は殺されたんじゃない」

「え……?」

「名前を奪われたんだ」

 男の声。

 女の声。

 老人の声。

 子供の声。

 すべてが重なっていた。

 だが誰の姿も見えない。

 慶子は耳を塞いだ。

 それでも声は頭の中で響き続けた。

 父は慶子を見た。

「封印しろ」

「どうやって!?」

「私ごと箱を閉じるんだ」

「そんな!」

「もう方法はない」

 怪物が迫る。

 父は笑った。

 半年ぶりに見る優しい笑顔だった。

「慶子」

「お父さん!」

「生きろ」

 父は怪物へ飛び込んだ。

 慶子は泣きながら木箱の蓋を閉じる。

 怪物の叫び。

 父の声。

 村人たちの悲鳴。

 すべてが闇の中へ吸い込まれていった。

 そして静寂。

 数か月後。

 慶子と母は元の生活へ戻っていた。

 もう荷物は届かない。

 父の名前を見ることもない。

 平穏だった。

 ある雨の日。

 母が店から帰って来た。

「慶子、荷物よ」

「え?」

 玄関を見る。

 小さな箱が置かれていた。

 差出人不明。

 震える手で伝票を見る。

 そこには見知らぬ名前が書かれていた。

 そして赤い文字で一言。

『次は慶子様です』

 慶子は凍り付いた。

 箱の中から。

 コツ。

 コツ。

 コツ。

 誰かが内側から叩いていた。

 その時だった。

 伝票に書かれていた受取人の名前が滲み始めた。

 慶子。

 慶子。

 慶子。

 文字はゆっくりと消えていく。

「お母さん……」

 慶子の声は震えていた。

 だが母は答えなかった。

 ただ青ざめた顔で伝票を見つめている。

 最後の一文字が消えた瞬間。

 箱の中から子供の声が聞こえた。

「見つけた」

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