継父の幽霊の影に囚われた女子高生の恐怖物語

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継父の幽霊の影

継父の幽霊に囚われた女子高生の恐怖譚

私の名前は美咲。ごく普通の女子高生だと思っていた。だが、母が再婚してから私の日常はゆっくりと狂い始めた。新しい継父、斎藤という男は優しそうに見えたが、どこか影のある人だった。彼が家に来てから数ヶ月後、不慮の事故で命を落としたのだ。

「……あの人、笑ってた?」
母は斎藤の葬儀の帰りにふと呟いた。私は黙って首を振った。だが、その夜から私は不可解な現象に悩まされるようになった。

最初は小さな物音だった。誰もいない廊下を歩く足音、誰も座っていないはずの椅子が軋む音。私は疲れのせいだと思い込もうとした。だがある晩、勉強机に向かっていると背後から低い声が聞こえた。

「美咲……」

振り返ると誰もいない。だが机の上の教科書の端がゆっくりとめくられていた。血の気が引いた。

次第に現象は酷くなっていった。洗面所の鏡に映るのは私一人のはずなのに、背後に知らない男の影が立っている。暗い寝室で目を閉じても、耳元に荒い呼吸が響く。

「継父……なの?」
声に出してしまった瞬間、部屋の電気が点滅した。

母に話そうか迷ったが、彼女は日に日にやつれていた。母もまた、何かを感じているようだったのだ。ある夜、母は震える声で私に言った。

「美咲……あの人、まだ家にいる気がするの」

私は黙って頷いた。母の目の下には深い隈ができていた。

それから数日後、私は奇妙な夢を見た。夢の中で継父が私を見下ろしていた。青白い顔、虚ろな目。口を大きく開き、何かを繰り返し呟いていた。

「返せ……返せ……」

目を覚ますと胸が重く、息が苦しかった。まるで誰かが私の胸に座っているかのようだった。

学校でも集中できなくなり、友人の由香に心配された。

「美咲、大丈夫?顔色悪いよ」
「……うん、ちょっと眠れてなくて」
「無理しないでね」

私は笑ってごまかしたが、背後から誰かに見られている感覚は消えなかった。

ある日の放課後、帰宅すると母の部屋から声が聞こえた。ドアを少し開けると、母が誰もいない空間に向かって話していた。

「ごめんなさい……でも、仕方なかったの」

私は息を呑んだ。母は何を謝っているのか。継父の影が母に憑いているのだろうか。

その夜、私は再び夢を見た。今度は継父が母を睨みつけ、怒鳴っていた。

「裏切ったな!お前も、娘も!」

私は目を覚まし、涙が頬を濡らしていた。夢のはずなのに、耳の奥で彼の声がまだ響いていた。

翌日、私は勇気を振り絞って母に問いかけた。

「お母さん……継父の死、本当に事故だったの?」

母の表情が固まった。沈黙のあと、彼女は小さな声で答えた。

「……あの人は、自分で……」
「自殺……?」
母は頷いた。しかしその目には、まだ何かを隠しているような影があった。

その晩、私はまた声を聞いた。

「真実を……知れ……」

窓の外を見ると、人影が立っていた。白い顔の継父が、庭からこちらを見上げていたのだ。私は叫び声をあげ、母が駆け込んできた。だが、窓の外にはもう何もいなかった。

「もう耐えられない……この家を出ましょう」
母はそう言ったが、私は首を振った。逃げても継父の霊は追いかけてくる気がした。

次の日、私は図書館で心霊や因縁に関する本を調べた。そこで知ったのは、未練を残して死んだ霊は、真実を明らかにするまで成仏できないということだった。

家に帰り、母に問い詰めた。

「お母さん、あの人は……何を恨んでるの?」

母は長い沈黙の後、ついに口を開いた。

「……実はね、あの人は借金を抱えていたの。私はそのことを知っていて、でも助けなかった。むしろ離婚を考えていたの」

私は息を呑んだ。
「だから……彼は絶望して……?」
「そう。だからきっと、私を恨んでるの」

その時、部屋の電気が消え、耳をつんざくような叫び声が響いた。

「裏切ったのは……お前だ……!」

母の背後に、継父の黒い影が浮かび上がった。私は反射的に母の手を掴んだ。

「やめて!お母さんを連れて行かないで!」

影は私の方を向いた。冷たい視線が胸を刺した。次の瞬間、私の頭に声が直接響いた。

「娘よ……真実を……見ろ……」

その瞬間、私の脳裏に映像が流れ込んできた。――継父が酒に酔い、母と激しく言い争う姿。母が泣き叫ぶ中、彼が窓から飛び降りる光景。

私は絶叫した。

「やめて!見せないで!」

映像が消え、影も消えた。母は泣き崩れた。

その日以来、継父の影は現れなくなった。だが私はまだ、夜になると耳を澄ませてしまう。

もしかしたら、あの声が再び私を呼ぶのではないかと。

そして私は気づいた。――あの影は母を恨んでいたのではなく、真実を私に伝えたかったのだと。

だが本当にそれだけなのだろうか。時折、廊下の隅に立つ黒い影を見た気がする。

「……まだ終わっていない」

低い声が、耳の奥で再び囁いた。

―――――

日常は戻ったように見えても、心の奥底は決して安らぐことはなかった。母は明るく振る舞おうとしていたが、深夜になると部屋の前で誰かと会話するような声が聞こえることがあった。

「……はい……わかりました……でも……娘は……」

私は震えながら布団を握りしめた。母はまだ継父の影と繋がっている。

ある晩、私は意を決して母の部屋に入った。そこには、誰もいないはずの椅子に黒い人影が腰掛けていた。顔は見えないが、背筋が凍るほどの存在感だった。

「お母さん!やめて!その人と話さないで!」

母は私に気づき、泣きながら叫んだ。
「美咲、逃げて!この人は……!」

だがその瞬間、影が立ち上がり、私に近づいてきた。心臓が締め付けられるように痛い。視界が揺れ、意識が遠のく。

「美咲……お前も……裏切ったのか……」

私は必死に首を振った。
「ちがう!私は……私はただ、お母さんを守りたいだけ!」

すると影は立ち止まり、静かに私を見つめた。その瞳の奥に、一瞬だけ悲しみが宿った気がした。

「……ならば……真実を……掘り起こせ……」

声とともに影は霧のように消えた。母は床に崩れ落ち、私はその手を必死に握った。

――真実を掘り起こす?

私は翌日、継父が亡くなった時の警察記録を調べる決心をした。母には内緒で、学校帰りに役所を訪れた。資料には「転落死」としか書かれていなかったが、近隣住民の証言として「夫婦喧嘩の声が激しく聞こえた」と記されていた。

私は震えながらページを閉じた。その瞬間、背後から冷たい風が吹きつけた。耳元で低い声が囁く。

「見つけろ……隠された真実を……」

私は振り返ったが、そこには誰もいなかった。

――継父の死には、まだ私の知らない秘密がある。

夜、再び夢を見た。夢の中で私は血に染まった畳の上に立っていた。母が泣き叫び、継父が怒鳴り散らしている。その後ろにもう一人、見知らぬ女が立っていた。

「誰……?」

女は微笑み、赤い着物を翻しながら言った。
「この家には、もっと深い闇があるのよ」

私は悲鳴をあげ、目を覚ました。心臓が激しく鼓動していた。

あの女は誰なのか。母が言っていた借金と関係があるのか。

もしかすると、継父の霊だけでなく、別の何かがこの家に潜んでいるのではないか。

そして私は悟った。――この恐怖はまだ終わっていない。いや、むしろ今から始まるのかもしれない。

廊下の暗闇の中、私は確かに見た。あの赤い着物の女が、静かに立っているのを。

「……終わらせるのは、あなたよ、美咲」

低く甘い声が、夜の家に響き渡った。

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