深夜の赤根トンネルに響く呪われた笑い声
幽霊トンネルに閉じ込められて
「おい、あれが噂の“赤根トンネル”じゃないか?」
友人の健太が指さした先には、山の中腹にぽっかりと口を開けた古びたトンネルが見えた。
「やめとこうよ、こんなとこ行っても楽しくないよ」
俺は嫌な予感がして、足を止めた。
しかし、健太、麻衣、そして陽介の三人は興味津々で車を降りて、トンネルの前に立った。
赤根トンネル――それは地元でも有名な心霊スポットで、過去に多くの事故や失踪があったと言われている。中でも、20年前にある家族がここで車ごと消えたという話が有名だった。
「大丈夫だって。ちょっと中を覗くだけ」
麻衣が笑って言い、俺の手を引いた。
仕方なく、俺もトンネルの中へと足を踏み入れた。
中はひんやりとしていて、夏だというのに肌寒さを感じた。
ライトをつけると、壁には赤黒い染みが点々と続き、誰かが書いたような意味不明の落書きが散乱していた。
「あれ、音聞こえた?」
陽介が立ち止まり、耳をすます。
どこからか、かすかに子供の笑い声のような音が聞こえてきた。
「ふざけるなよ、誰だよ録音でも流してんの?」
健太が苛立った様子で叫んだが、返事はない。
その瞬間、トンネルの入口が「バンッ!」という轟音とともに閉まった。
驚いて振り返ると、誰もいないはずの場所に、白い服を着た長髪の女が立っていた。
「う、うそだろ…」
俺たちは声も出せず、その女を見つめた。
女はゆっくりとこちらに近づいてくる。顔はぼやけていて判別できず、ただ異様な存在感だけが全身を締め付けた。
「走れっ!!」
健太の声に反応して、一斉に走り出す。
だが、走っても走っても出口は見えない。トンネルの中はまるでループしているかのように同じ風景が続く。
「もう無理だ…どこにも行けない…」
麻衣が泣きながら座り込んだ。
その時、どこからか声がした。
『だれか…たすけて…ここから…だして…』
俺は背筋が凍るのを感じた。
「おい、今の…誰の声だ?」
陽介が震えながら問うと、壁の奥から再び声が響いた。
『わたし…ここにいるの…』
健太が壁を叩いた。すると、壁がガタンと動いた。まるで何かが裏にあるようだった。
「なんだこれ…秘密の通路?」
俺たちは恐る恐るその壁を押し開け、中へ入った。
中は古いトンネルのようだったが、明らかに普通ではなかった。
壁一面に手形があり、足元にはボロボロの人形や、焼け焦げた写真が散らばっている。
「これ…20年前に消えた家族のものじゃ…」
麻衣が拾った写真には、笑顔の母親と二人の子供が写っていた。
だが、その写真の端には血のような赤い跡が付いていた。
「ここ、おかしい…時間が止まってるみたいだ」
陽介が腕時計を見ると、トンネルに入ってから全く動いていないことに気づく。
その瞬間、ライトが突然消えた。
暗闇の中、誰かが笑った。
『…ようこそ、わたしたちの世界へ…』
「やめろ…出してくれ!!」
健太が叫ぶが、返事はない。
突然、彼の足が何かに掴まれたように引きずられ、闇の中へと消えた。
「健太っ!!」
俺たちは後を追おうとしたが、目の前に白い女が現れた。
「こっち…こないでっ!!」
麻衣が叫び、女に向かって石を投げた。女の身体をすり抜けた石は、壁に当たり崩れた部分から古い日記帳が落ちてきた。
俺はその日記を拾い、読んだ。
『平成17年8月5日 今日も出口は見つからなかった。ここに来たのは間違いだった。誰か、このトンネルの呪いを止めて…』
その文字は震えながら書かれていて、最後のページには血で書かれたような一文があった。
『出口は…“生贄”の先にある』
「生贄…? まさか…健太が…」
その時、トンネルの先から光が差し込んだ。
「外だ!!」
陽介が叫び、俺と麻衣は走り出した。
しかし、振り返ると陽介がいない。
「陽介!? 陽介ーーーっ!!」
返事はない。
麻衣と二人でなんとか出口を抜けると、そこは見覚えのない山の中だった。
空は赤く染まり、まるで別の世界のようだった。
「ここ…どこ…?」
麻衣が震える声で呟くと、俺のポケットの中から日記帳が落ちた。
開かれたページには、こう書かれていた。
『今度は、あなたたちが見張る番よ』
麻衣の顔を見ると、彼女の目は真っ黒に染まり、口元には不気味な笑みが浮かんでいた。
「ようこそ…ここは“出口”じゃないの…始まりよ…」
俺は叫び声を上げようとしたが、声が出なかった。
目の前の景色がぐにゃりと歪み、意識が闇に飲まれていく――
気づいた時、俺は再び赤根トンネルの前に立っていた。
車も、仲間も、全てなかった。
スマホを見ると、日付は20年前に戻っていた。
俺の背後から、子供の笑い声が聞こえた。
「もう一人、来たね」
闇の中に、あの白い女の姿が浮かび上がる。
そしてその手には…俺の写真が握られていた。
――そして現在。
赤根トンネルでは、また一台の車が止まり、若者たちが中へと入っていった。
「本当に入るの? ここ、マジでやばいって聞いたよ?」
新たなグループの一人、菜々が怯えながら言う。
「大丈夫大丈夫。肝試しだろ?」
リーダー格の大輝が笑う。
トンネルの奥から、かすかに微笑む声が聞こえた。
『いらっしゃい…また会えたね…』
その瞬間、彼らの背後で入口が「ギィィィ…」と音を立てて閉じた。
そして壁の隙間から、一冊の古びた日記帳が転がり落ちる。
その表紙にはこう書かれていた。
『このトンネルから出るには、一人を残さなければならない』
菜々がその文字を読み上げた瞬間、暗闇の奥から足音が響いてきた。
誰かが、確かにそこにいた。いや、ずっと、そこにいたのだ――。

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