死んだ同僚の呪いに囚われた女性社員の恐怖体験

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死んだ友人の恐怖

亡霊の囁きが導くオフィスの恐怖

「…なあ、真由美。オレの代わりにやってくれよ。な? 君ならできるって思ってたんだ」
その声を聞いた瞬間、私は凍りついた。

東京の中心部にあるオフィスビルの一角。私はごく普通の事務職として働く29歳の会社員、佐藤真由美だ。
毎朝電車に揺られ、コーヒー片手にデスクへ向かう。それが日常だった――彼が死ぬまでは。

彼の名前は田中亮介。私の同僚であり、時折冗談を言いながら残業を乗り切る、頼れる存在だった。
しかし、3ヶ月前、彼は突然亡くなった。

「自殺らしいよ」
「いや、事故だって聞いたけど…」
社内では様々な噂が飛び交ったが、真相は分からずじまいだった。

それからというもの、私の周囲で奇妙なことが起こり始めた。

ある夜、残業していた時、誰もいない会議室から声がした。
「…まゆみ……」
背筋がぞくりとした。誰もいないはずなのに、確かに私の名前を呼ぶ男の声。

私は恐る恐る会議室のドアを開けた。だが、中には誰もいなかった。ただ、ホワイトボードに赤いマーカーでこう書かれていた。
「助けてくれ」

「なにこれ…誰の悪戯?」
翌日その文字は消えていた。だが、これが始まりだった。

その日から、私は毎晩のように同じ夢を見た。
亮介がボロボロのスーツ姿で、笑いながら私に近づいてくる夢だ。
「まゆみ…助けてって言ったよね? 君しかいないんだよ」

その目は血走っていて、笑っているのに泣いているようだった。
朝起きると、汗びっしょりで息が荒い。

そんなある日、私はオフィスの引き出しから一枚のメモを見つけた。
『資料室の棚の奥 赤いファイル』
見覚えのない字だったが、なぜか亮介の声が脳裏に響いた気がした。

その日の夜、皆が帰った後で私は資料室へ向かった。
棚の奥を手探りで探すと、古びた赤いファイルが一つだけあった。

中には社員の名前とプロジェクトコード、そして不自然に黒塗りされた報告書。
その中に私と亮介の名前が記されていた。

「これは…何?」

資料をめくる手が震える。最後のページには手書きでこう記されていた。
『裏切られた。許さない』

その瞬間、後ろから冷たい風が吹いた。
「あの時、お前だけ逃げたな」
反射的に振り向くと、そこには血まみれの亮介が立っていた。

「りょ、亮介…!?」
「なぜ言わなかった。あれを知ってたのに…」

私は何も言えず、ただ後退りする。

――実は、私は亮介が関わっていた不正を知っていた。だが、怖くて何も言えなかった。
彼はその責任を一人で背負い、命を落としたのだ。

「ごめんなさい…私は…私は…!」
「もう遅い」

亮介の顔が歪み、口が裂けるほどに広がった。
「お前もこっちに来いよ」

私は叫び声をあげて逃げ出した。資料室を飛び出し、オフィスの廊下を駆け抜ける。
背後から足音が響く。誰もいないはずのフロアに…確かに誰かが追いかけてくる音。

階段を駆け降り、エレベーターに飛び乗った瞬間、私は手元のスマホを見た。
画面には「着信:田中亮介」の文字。

震える指で応答を押すと、無機質な声が響いた。
「次は君の番だ」

それ以降、私の生活は崩壊した。
自宅の鏡に亮介の顔が映るようになり、深夜のテレビから彼の声が聞こえる。

ある日、通勤途中のホームで、私の肩を誰かが叩いた。振り返ると誰もいない。だがポケットにはメモが入っていた。
『次の満月の夜、屋上へ』

私は従った。逃げることもできず、もはや抗う気力もなかった。

満月の夜、オフィスビルの屋上には亮介がいた。いや、亮介の姿をした何か。

「ありがとう、来てくれて」
「これで、終わるの…?」
「いや、始まりだよ」

彼は私の手を取った。冷たい、氷のような手。
「一緒に償おう。永遠に」

その瞬間、背後から誰かが私を引っ張った。

「真由美さん!」
それは後輩の佐々木くんだった。
「危ない、今にも飛び降りるところでしたよ!」

私は我に返った。屋上の縁に立ち、今にも落ちようとしていた。

――夢じゃなかったのか?

その後、私は会社を辞め、心療内科に通うようになった。
だが今でも、夜になると彼の声が耳元で囁く。
「真由美、逃がさないよ」

私は今も、あの時の選択を悔やみ続けている。
亮介を裏切ったこと、真実から目を背けたこと、その代償は――終わらない。

ある晩、私は再び資料室に足を踏み入れた。なぜか引き寄せられるように。
以前開かなかったロッカーが、まるで待っていたかのように少し開いていた。

中にはもう一冊、青いファイルが入っていた。
開いてみると、社内の隠蔽事件の証拠が詳細に書かれていた。しかもそれは、亮介が命をかけて集めていたものだった。

「…これを公にすれば…」

私はふと、あの声を思い出した。
「まゆみ、オレの代わりにやってくれよ」

彼は私に託したのだ。真実を。

翌日、私はそのファイルを持って、マスコミへと向かった。
証拠が表に出れば、亮介の死は無駄ではなくなる。そう信じた。

報道後、社内は大混乱に陥った。数名の幹部が辞任し、数件の訴訟が起きた。
私は再び表に出ることはなかったが、どこかで亮介が安らかに眠ることを祈った。

だが――それでも、夜になると彼の声がする。
「ありがとう、でも……君はまだ罪を償いきれてないよ」

部屋の電気が突然消えた。暗闇の中、パソコンの画面だけが光る。そこにはひとつのファイル名が表示されていた。
【真由美:次の犠牲者】

私は震えながら電源を落とした。だが、鏡に映る私の背後には、亮介がいた。
笑っていた。
「まだ、終わってないんだ」

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