夜の公園に響く少女の声と祠の秘密

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公園の夜

公園の夜

「ねえ、今日もあの公園に行くの?」
麻美は心配そうに僕を見つめながらそう尋ねた。

「うん。やっぱり気になるんだ。あの噂、本当かどうか確かめたいんだよ」
僕はスマートフォンをポケットにしまい、夜の支度を始めた。

都内の外れにある小さな公園、「楠町公園」。一見、普通の住宅街にある平凡な場所。しかし、近所では数年前から奇妙な噂が囁かれていた。

『夜の公園で女の声が聞こえる』『ブランコが誰も乗ってないのに揺れている』『公園の奥にある祠に近づくと帰れなくなる』

僕は都市伝説が大好きで、こういった話を実際に検証するのが趣味だった。でも今回は、何かが違っていた。

夜の10時、公園の入り口に立ったとき、背筋がぞわりと震えた。
「やっぱり、ただの気のせいじゃないな…」

街灯はあるが、ぼんやりと暗く、風が木々の間を吹き抜ける音が耳に染みる。誰もいないはずなのに、何かに見られているような気配があった。

「……誰か、いるのか?」
そう呟いた瞬間、ブランコがキィ…キィ…と揺れ始めた。
「うわ…マジかよ…」
僕はそっとブランコに近づいた。

その時だった。

「……たすけて」

背後からかすかに女の声が聞こえた。振り返っても誰もいない。
「今の…気のせいか?」
恐怖を押し殺しながら、奥の祠へ向かって足を進める。

祠は雑草に囲まれ、ほとんど誰も近づいた様子がない。
「ここが噂の場所か…」
僕はスマホのライトを点け、祠の中を覗き込んだ。

すると、そこに古びたお札と写真があった。
写真には幼い女の子と若い女性、そして男が映っていた。
「……家族か?」
写真の裏には、墨で「昭和五十九年 春美 三歳 楠町公園」と書かれていた。

そのとき、突如スマホのライトがチカチカと点滅し、次の瞬間には完全に消えてしまった。

「おい、マジかよ……」

辺りは真っ暗。風の音に混じって、さっきの声がまた聞こえた。

「たすけて……ままが、いないの」

心臓がバクバクと音を立てる。何かが背後にいる。
振り返ると、そこにいたのは――白いワンピースを着た、小さな女の子。

顔が…ない。

「ああああっ!!!」

僕は叫び声を上げて走り出した。出口がどこか分からない。気づけば公園の中を何度も同じ道をぐるぐると回っていた。

「出られない…なんで、なんでだよっ!」

そのとき、再び声が聞こえた。

「ここでね、まま、しんじゃったの。わたし、ひとりぼっちなの」

僕の前に女の子が現れ、まっすぐ僕の目を見てきた。今度は、顔があった。涙を浮かべた目が、何かを訴えている。

「ままを、さがして…」

僕はなぜか、その言葉を無視できなかった。恐怖の中に、哀しさが混ざっていた。
「君の…お母さんはどこに?」

女の子は手を伸ばし、公園の奥、古い滑り台の方向を指差した。

そこには…地面が不自然に盛り上がった場所があった。まるで何かが埋まっているように。

「ここに…?」
僕は木の枝で土を掘り始めた。すると、すぐに錆びたペンダントが出てきた。中には女性の写真。そして、その顔は、祠の写真の女性と同じだった。

「これは…君のお母さん?」
僕が顔を上げると、女の子はもういなかった。

代わりに、空から白い羽のようなものがふわりと舞い落ちてきた。風が止み、時間が止まったような感覚に包まれる。

その瞬間、スマホが再び光を取り戻し、道の先に街灯の灯りが見えた。

――出られる。

僕は急いで公園の外へ駆け出した。振り返ると、そこにはもう祠も、盛り上がった土も、何もなかった。

数日後、僕は区役所の資料室で調べた。
昭和五十九年、公園で一人の母親が刺殺された事件があった。犯人は捕まらず、幼い娘はそのまま行方不明になったままだという。

僕が見たのは…あの女の子だったのか。

その夜以来、公園にはもう行っていない。けれど、今でも夢にあの声が響く。

「まま、みつかったよ。ありがとう」

その声が、ほんの少しだけ優しく感じられたのは、僕の気のせいだろうか――。

***

後日、麻美と話をした。
「もう、あの公園には行かない方がいい。君、前とは違う顔してるよ」
麻美の言葉に、僕はうなずくしかなかった。

「……でもね、あの女の子、ずっと待ってたんだよ。きっと、誰かが見つけてくれるのを」
「じゃあ、成仏できたのかな…?」

僕はしばらく黙ってから、ふと思い出したように言った。
「祠の場所、今は更地になってるんだ。公園の再整備計画で取り壊されたって。でもさ、妙なんだよ」

「妙って?」

「更地にした日、作業員の一人が倒れて、意識不明になったってさ」

麻美の顔が青ざめる。
「まさか…まだ何か残ってるの?」

僕も、答えは出なかった。ただ、あの夜からというもの、不思議なことが続いていた。

部屋の鏡に一瞬映る女の子の影。
録音機に残る子供の笑い声。
そして――深夜、窓の外で揺れるブランコの音。

「もう、関わらない方がいいかもな」
僕は呟いたが、心の中では分かっていた。
あの夜の出来事は、もう“終わった”ことではないのかもしれない。

あの祠の跡地には、今は誰も近づかない。
子供たちは遊ばなくなり、遊具は錆びつき、静寂だけが残っている。

でも時々、夜になると風が囁くようにこう聞こえる――

「…まだ、ままが、こないの」

それは、救われたはずの魂が、また孤独に引き戻されたという証なのだろうか。

今夜も、あのブランコは誰もいないのに、静かに揺れている。

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