危険な真実

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危険な真実

危険な真実

「ねぇ、春樹、本当に行くの?あの村には近づかない方がいいって、おばあちゃんが言ってたよ」
夏美は心配そうな顔で春樹を見つめた。

「行かなきゃいけないんだ、夏美。父さんのことを知るためには」
春樹の目は真剣だった。彼の父親は10年前、突然行方不明になった。唯一の手がかりは、山奥にある廃村「雉山(きじやま)」で撮られた一枚の古い写真だけだった。

その村はすでに地図からも消され、地元の人々の間では「呪われた村」として恐れられていた。

二人は意を決して、村の入り口へと向かった。秋の風が吹き抜け、枯葉が舞い上がる。

「見て、あれが鳥居じゃない?でも…傾いてる」
夏美が指差した先には、苔むした古びた鳥居があった。その先はまるで別世界のように、音のない静寂が支配していた。

「行こう」
春樹は鳥居をくぐり、村の中へと足を踏み入れた。

そこには崩れかけた家々と、異様に静かな空気が漂っていた。人の気配は一切ない。

「こんなに静かなんて…まるで時間が止まってるみたい」
夏美の声がかすかに震えていた。

「父さんが最後に撮った写真の場所を探そう。あの祠の前だったはずだ」
二人は村の奥へと進んだ。そこには、木々に覆われた小さな祠があった。

「ここだ…間違いない」
春樹が祠の前に立ち止まり、カメラを取り出した瞬間だった。

「ガサ…」
茂みの中から音がした。夏美が驚いて振り返ると、誰かの影が一瞬見えた。

「誰かいるの?」
返事はない。しかし、何かが二人を見ている気配があった。

「春樹、やっぱり戻ろうよ、何かおかしい…」
「もう少しだけ…」

春樹は祠の扉を開けようとした。だがその瞬間、空が暗くなり、突風が吹き荒れた。

「うわっ!」
扉が勝手に開き、中から黒い煙のようなものが飛び出した。二人はその場に倒れ込んだ。

意識を取り戻した時、辺りは真っ暗だった。空には月も星もなかった。

「ここは…どこ?」
夏美が震える声で言った。

「さっきと同じ場所のはずだけど、何かが違う」

村は異様に静まり返り、家々には赤い手形が無数に残されていた。

「春樹、見て…あれ…」
祠の裏手に、古い井戸があった。その周りにはお札が貼られていたが、すでに破れ、何者かによって荒らされた形跡があった。

「井戸…まさか、ここに父さんが…」
春樹が井戸の縁を覗き込んだその時、不意に井戸の中から白い手が伸びてきた。

「逃げて!」
夏美が叫び、春樹の手を引いた。白い手は彼の足を掴みかけたが、間一髪のところで逃れることができた。

「これは…この村は、何かを隠してる」

その時、村の中央にある神社の方角から太鼓の音が鳴り響いた。まるで、誰かが儀式を始めたかのようだった。

「あそこに行けば何かわかるかも」

二人は神社へと向かった。境内には古びた社殿があり、中央に大きな箱が鎮座していた。その横には、封印された書物が置かれていた。

春樹が手を伸ばし、書物を開いた瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、「封印された真実」と題された古文書だった。

そこにはこう書かれていた。
「この村はかつて、人柱によって災いを鎮めた。選ばれし者は、生贄として井戸に沈められ、その魂は今もこの地に囚われている。封印を破る者には、呪いが降りかかるだろう」

「父さんは…この真実を知ってしまったんだ。そして、封印を…」

夏美が震える声で言った。
「それじゃあ…私たちも…」

突如、社殿の中から無数の黒い影が現れ、二人を囲んだ。

「逃げろ!」

春樹は夏美の手を引き、全速力で神社を飛び出した。だが、出口だったはずの鳥居がどこにも見当たらない。

「おかしい…道が…消えてる」

その時、耳元で囁き声が聞こえた。
「かえさない…しんじつを…しったものは…」

二人は恐怖に凍りついた。逃げ場のない空間の中、闇が徐々に迫ってくる。

「春樹、もし戻れたら…この村のことを、誰かに伝えて…」
夏美が涙を流しながら言った。

「いや…必ず戻る。こんな呪い、父さんの分まで俺が終わらせる!」

春樹は懐からライターを取り出し、祠に火を放った。
炎はすぐに祠を包み、やがて村全体へと燃え広がっていった。

影たちの叫び声が響き、空が赤く染まる。

――そして気づくと、二人は村の外、鳥居の前に倒れていた。

「助かった…の?」

周囲はいつもの森の風景に戻っていた。しかし、祠も井戸も、すべてが跡形もなく消えていた。

春樹はカメラを取り出し、確認した。そこには祠の中で撮った一枚の写真だけが残されていた。

写っていたのは、井戸の中から覗く、自分そっくりの顔だった。

「これは…父さんじゃない…俺…?」

その瞬間、春樹の頭の中に不気味な囁きが響いた。

「しんじつを…けして…わすれるな…」



数日後、春樹は父の古い日記を偶然見つけた。日記には「雉山に行ってはならない。そこには俺の“もう一人の姿”がいる」と書かれていた。

「もう一人の姿…?」

春樹は自分の夢を何度も見るようになった。そこではいつも同じ声が囁く。
「お前はすでに境界を越えた。戻る場所など、もうない」

その声が聞こえた日、鏡に映る自分の目が、一瞬だけ赤く光った。

夏美はその後、精神のバランスを崩し、病院に入院した。
彼女は夜中になると叫ぶらしい。
「井戸が…開いてる!また、来る…!」

春樹は今も真実を求め、各地を彷徨っている。だが彼の周囲では、奇妙な死が相次いで起こっているという。

真実を知った者に、救いはない。
それが、「危険な真実」なのだから。

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