ゲームの呪い

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ゲームの呪い

ゲームの呪い

「なあ、これってマジでやばいゲームなんじゃないのか?」
深夜、大学生の拓海は古びたゲームソフトを手に取りながら友人の亮に尋ねた。
「都市伝説レベルだろ。どうせ誰かがふざけて流しただけさ」
亮は笑い飛ばしたが、その目には一抹の不安が浮かんでいた。

そのゲームソフトは、秋葉原の中古ゲームショップの奥で埃をかぶっていた。タイトルは『ミコの館』。ファミコン風のカートリッジに手書きで書かれたタイトルは不気味さを際立たせていた。

その夜、拓海と亮は好奇心からプレイを始めた。テレビに映し出されたのは、モノクロの廃屋の中を巫女の姿をしたキャラクターが徘徊する、どこか不穏な雰囲気のゲームだった。

「グラフィックは古いけど……なんか気持ち悪いな」
「うん、BGMもおかしい。音程がズレてる……」

プレイを続けるにつれ、ゲーム内の文字が乱れ始めた。「カエレ」「ミルナ」「コロス」といった意味不明な単語が画面を埋め尽くす。そして、ゲームの中の巫女が急にこちらを振り向いた。

「あれ……? 今、目が合ったよな?」
「え、どういうこと? NPCだろ?」

その瞬間、テレビがノイズとともにブラックアウトした。電源を切っても画面には「ミテハイケナイ」と表示され続けた。

翌朝、亮が連絡もなく講義を欠席した。心配した拓海は彼のアパートを訪ねた。
ドアをノックしても反応はない。鍵が開いていた。中に入ると、部屋の中は散乱しており、壁には血のような赤い液体で「カエレ」と書かれていた。

「亮!? どこにいるんだよ!」
部屋の隅で震える亮を見つけた。

「おい、しっかりしろ!」
「……見てはいけなかった……巫女が……来る……」
亮はそのまま病院に運ばれ、現在も言葉を発さない。

拓海はあの夜のことが頭から離れず、再びゲームを調べることにした。ネット掲示板の都市伝説スレッドにて、『ミコの館』についての情報を探す。似たような被害にあったという投稿がいくつも見つかった。

ある書き込みに目が留まった。
「クリアするには、ゲームの“封印の間”で本名を入力してはならない。そうでないと、巫女が現実に現れる」

拓海は再びゲームをプレイする決意をする。亮を救うには、真相を突き止めねばならないと感じた。

夜、ゲームを起動すると、通常では到達できないステージが表示された。「封印の間」。巫女が振り向き、「ナマエヲイレテ」と口を動かす。

拓海は自分の本名ではなく、「名無し」と入力した。
巫女は絶叫し、画面が真っ暗に。

だが直後、部屋の空気が凍るように冷たくなり、背後から足音が――

「……た、たくみ……」
振り返ると、血まみれの巫女が立っていた。
「ゲームを……終わらせないで……」
拓海は叫びながら部屋を飛び出す。だが、どこまで逃げても、ゲームのBGMが耳から離れない。

次の日、拓海も大学に姿を見せなかった。
彼の部屋には起動し続けるファミコンと、「ツギハ……アナタ」と表示されたテレビだけが残されていた。



数日後、都市伝説に詳しい記者の柴崎麻衣(しばさき・まい)がこの事件に興味を持ち、取材に乗り出した。

「失踪した大学生二人、共通点は“ミコの館”……このゲーム、何かある」

彼女は秋葉原のゲームショップを訪れ、店主に話を聞いた。

「ああ、そのソフトか。昔から噂はあるよ。あれを手に取った客は、みんな……おかしくなっていった」

「それはいつから?」
「1990年頃からだな。あれは元々、販売されていないソフトなんだ。どこかの開発者が、供養のために作ったとか、誰かの怨念を封じたとか、噂は多いさ」

麻衣はある廃業したソフトメーカーの元社員を訪ねた。
「……ミコの館? 知ってるよ。うちの元社員が作ってた。あれはね、実際に祓えなかった霊を封印するための“媒体”として作られたんだ」

「祓えなかった……? どういうことですか?」
「80年代に、とある神社の巫女が大量殺人を犯したという話、知ってるかい? その怨念が強すぎて……廃神社に封じられていたが、ある開発者が面白半分で霊の記録をプログラムに落とし込んだ。それが“ミコの館”さ」

「じゃあ、このゲームは……本物の霊を封じ込めた器?」
男は静かにうなずいた。

麻衣はその夜、覚悟を決めてゲームを起動した。
画面には、静かに微笑む巫女が現れた。
「あなたも……私と遊んでくれるの?」

麻衣は驚きつつも、録画を続けながら進めた。
ゲーム内で巫女を追い詰め、「封印の間」へと突入。
名前入力画面が現れる。彼女は、自身の名前ではなく「記者」と入力した。

画面は揺れ、巫女が叫ぶ。
「嘘をついたなあああ!!」

テレビが爆音とともにブラックアウトした。麻衣は後方から誰かに囁かれる声を聞いた。
「ホンミョウ……シッテマス……」

それから麻衣は体調を崩し、姿を消した。彼女が残した録画には、巫女が画面の向こうからカメラに向かって笑いかける姿が映っていたという。



今もネットでは『ミコの館』のROMファイルが出回ることがあるが、それをダウンロードした者の多くが奇妙な失踪や精神崩壊を起こしている。中には、実際の“封印神社”の位置を示すデータが含まれているという説もある。

ある都市伝説フォーラムには、こう書かれていた。

「ゲームが終わると、現実が始まる。画面越しの彼女は、あなたを待っている」

そして最後に、今このページを読んでいるあなたへ――

もし、夜中にふとテレビが勝手に点いたなら。もし、「ナマエヲイレテ」と聞こえたなら。

どうか、絶対に名前を入力してはいけない。巫女はすでに、あなたの背後に立っているかもしれないから――。

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