静かな湖

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静かな湖

静かな湖

深い森に囲まれた静かな湖。日中は美しい景色を誇り、観光客が訪れることもあるが、夜になるとその湖は別の顔を見せる。その湖に関する噂は、何年も前からこの町で語り継がれている。夜になると湖に近づく者は、二度と戻らないというのだ。

「君、本当にあの湖に行こうと思っているのか?」

友人の慎一が、私に心配そうに尋ねた。

「うん、どうしても確かめたいんだ。」

私はその言葉を返すと、慎一はため息をついた。

「でも、あれはただの噂じゃないのか? 誰も真実を知らないはずだ。」

私は慎一の不安を感じ取りながらも、湖に関する噂に興味が尽きなかった。町で暮らす住人たちは、湖にまつわる恐ろしい話を避けて話題にすることがなかった。それが私の好奇心を刺激していた。

その夜、私と慎一は湖に向かって出発した。森の中を歩きながら、私たちは徐々にその静かな湖へと近づいていった。周囲は夜の闇に包まれ、空気がひんやりと冷たく感じられる。

「本当に怖くないのか?」

慎一が再び声をかけたが、私はただ無言で歩き続けた。やがて、湖が視界に入った。その水面は鏡のように静かで、月明かりが反射して美しかった。しかし、その美しさの裏に潜む不気味な雰囲気を、私は感じ取っていた。

「ここが…静かな湖か。」

慎一もその景色に圧倒された様子で呟いた。私たちは湖のほとりに立ち、しばらくその静けさを楽しんだ。しかし、突然、湖の水面が微かに揺れた。最初は風のせいだと思ったが、その揺れはどんどん大きくなり、まるで何かが湖底から浮かび上がるような感覚を覚えた。

「見て…!」

慎一が震えた声で言った。その言葉に私たちの視線は一斉に湖面に集中した。湖面の中央に、ゆっくりと顔が浮かび上がったのだ。

それは女性の顔で、目が見開かれ、何とも言えない表情を浮かべていた。

「何だ、あれは…?」

慎一が震えながら言ったが、私の心も冷たい恐怖で満たされた。顔は次第に水面から浮かび上がり、完全に姿が現れた。その女性は、髪が長く、白い着物を身にまとっていた。彼女の姿はまるで水の中から這い出してきたかのようだった。

「逃げろ!」

私は慎一を引っ張り、湖から離れようとした。しかし、足が動かない。まるで足元が重く、何かに引き寄せられるような感覚に襲われた。

そのとき、女性の声が湖から響いてきた。

「あなたたちも…来てしまったのね。」

その声は、どこからともなく響いてきて、まるで私たちの心の奥底に直接語りかけているようだった。

「来てはいけなかった…」

慎一は恐怖に震えながら、後ろを振り返ると、女性がこちらにゆっくりと歩み寄ってくるのが見えた。

「ここは…あなたたちの場所ではない。」

その言葉が響くと、突然、湖の水面が荒れ始めた。波が立ち、湖の中央から暗い手が伸びてきた。それはまるで、湖そのものが私たちを飲み込もうとしているようだった。

「行こう!」

私は必死に慎一の手を引き、足を動かし始めた。振り返ると、女性は静かに笑っていた。その笑い声は、まるで湖の中から響いているように耳に残り、私の胸を締め付けた。

やっとのことで森に戻り、町へと逃げ帰ることができた。私たちはその後、あの湖に二度と近づかなかった。

しかし、時折、町の住人たちが語る話が耳に入ることがある。夜、湖の近くで不思議な声や足音が聞こえるという話だ。そして、あの湖に関する噂は今もなお続いている。

その後、慎一と私はその湖の真実を解き明かすために再び訪れることを決意した。しかし、二度目の訪問では、何も不気味な現象は起こらなかった。湖はただの静かな水面に過ぎなかった。しかし、私たちが帰ろうとしたその瞬間、何かが変わった。

「おい、あれ見ろ。」

慎一が指差した先には、湖の中に不自然な影が見えた。その影は動いているように見え、次第に私たちに近づいてきた。

「早く逃げろ!」

私は叫び、慎一を引っ張って再び走り出した。しかし、影はどんどん迫ってきて、振り返るとその姿が水面に浮かんでいるのが見えた。それは、先ほど見た女性ではなかった。今度は一人の男性が、水面を這うようにしてこちらに向かってくるのが見えた。

その男は顔が蒼白で、目がぎょろりと見開かれていた。私たちはその恐ろしい姿を見て、完全にパニックになり、森を突っ切って町まで戻ることができた。

あの湖が何かに呪われているのか、それとも本当に何かが私たちを試していたのか、それは未だにわからない。けれど、私は確信している。あの湖には決して近づいてはいけないということだ。

町の人々は今でもその湖を避け、夜に近づくことはない。それでも時々、湖の近くで奇妙な音が聞こえたり、人々が姿を消したりすることがある。そして、あの湖の呪いが続いている限り、誰もその真実にたどり着くことはないだろう。

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