鬼の笑い声
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鬼の笑い声
都市の深い街にある古い居酒屋。何年も前、その居酒屋で一人の酒女が突然姿を消した。一夜のうちに店は閉じられ、以来、そこに足を迷わせる者はいない。だが、夜になると、その店の周辺に居ると、怪しい笑い声が聞こえてくるという。
「実は今日の夜、その店を見てきたいと思うんだ。」
渡邉という若者が地元の旧友であるハルトに言った。
「またお前はそういうオカルトなことを…。しかし、それなら一緒に行ってみるか。でもほんとうに大丈夫か?」
「何も問題ないさ。ただ、一度この目でその居酒屋を見たかった。本当に人がいないのか、なんでそこまで噂が流れるのかを。」
夜、渡邉とハルトは己がれた街を歩いてその居酒屋に近づいた。かつての迷い光に照らされた店の橋からは、気味の悪い笑い声がたしかに聞こえてきた。
「聞こえたよな?」
ハルトが小さくつぶやいた。
「ああ、間違いない。深いところから聞こえる。」
その瞬間、暗い街に灑かれた月の光が沈む中、居酒屋のドアがゆっくりと開いた。
「よく来たわね。」
水の滴るような声がひっそりと流れた。黒い結び装を着た女がカウンターに倒れかけて居た。その顔は薄暮がっており、わずかに笑っているように見える。
「誰だよあんた。ここに何かあるのか?」
ハルトが怪言を発した。その時、女の首がきしゃきしゃと音をたててひずみ、その背中には大きく「鬼」の文字が刻まれていた。
その瞬間、音を立ててハルトが逃げようとしたが、鬼の笑い声がごうごうと濃くなり、彼らの身を囲むように道を阻ぐような音を立てた。どこまでもついてくるような、そして深い恨意の混じった笑い声が…。

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