無人の駅
無人の駅
深夜、私は疲れ果てて帰宅の途中、普段使わない駅で降りることになった。
その駅は、地元の人々でも滅多に使わないという、古びた無人の駅だった。
最寄り駅から数駅離れた場所にあり、夜になると誰も利用しない。
「こんな時間に、誰もいない駅なんて怖いな。」
私は自分にそう言い聞かせながら、降りるときの足音を響かせた。
駅舎の中は、薄暗く、空気が重かった。
駅のホームには、電灯がひとつだけ点っているが、それもちらちらと揺れていた。
「終電もとっくに過ぎているし、誰もいないよな。」
私は周囲を見回すが、人影は全くなかった。
ホームの端に向かうと、列車が止まっているのが見えた。
「この駅、まだ使われているのか。」
一瞬、違和感を感じたが、疲れていたので気にせず歩を進めた。
すると、駅舎の中から、かすかな音が聞こえてきた。
まるで誰かが何かを引きずるような音だった。
「誰かいるのか?」
私は声をかけようとしたが、その瞬間、駅のライトが一斉に消えた。
「な、何だ?」
私は立ち止まり、目をこらした。
暗闇の中で、何かがうごめいているような気配がした。
「誰かいますか?」
恐る恐る声をかけてみるが、返事はない。
それどころか、駅舎内の気温が急に冷え込んだように感じた。
「おかしいな……。」
私は駅の出口に向かって歩き始めた。
その時、またあの引きずる音が聞こえてきた。
振り返ると、ホームの端に何かが見えた。
それは、白い布をかぶったような、ぼんやりとした人影だった。
「だ、誰だ?」
私は足を速め、出口へと向かう。
だがその時、背後から突然、低い声が響いた。
「待って、どこに行くの?」
その声は、まるで私の耳元でささやくように聞こえた。
私は振り向くことなく、必死で出口に向かって走り始めた。
その時、背後からまた引きずる音が近づいてきた。
足音が、私のすぐ後ろまで迫ってきた。
私は恐怖で胸が締め付けられ、足が動かなくなった。
「やめて……!」
私は恐怖に震えながら声を上げた。その瞬間、出口のドアがひとりでに開いた。
「ありがたい……。」
だが、ドアの向こうには、誰かが立っている気配がした。
「誰だ……?」
私はその影に向かって叫ぶ。
「お前は、誰だ!」
その影は動かず、ただ立ち尽くしていた。
私は恐る恐る近づいていった。
その影の顔が見えた瞬間、私はその場で足がすくんだ。
その顔は、私が知っているはずの顔だった。
それは、私の家族の顔だった。
「お前……。」
その顔は、かつて私がよく見た家族の面影を持っていた。
だが、目は空ろで、まるで私を見ていないようだった。
「お前がここにいる理由は分かっているか?」
その声は、まるで家族のようだったが、同時にとても冷たく、無機質な響きがあった。
「お前がここにいる理由、答えなさい。」
その声は、再び私を支配しようとしていた。
私は全身を震わせながら答えることができなかった。
その瞬間、電車の音が突然響き渡った。
無人駅から、遠くの電車の音が聞こえてきた。
その音はどんどん近づいてきて、ついには私の耳元で鳴り響いた。
「やめろ……」
私はその音を耳にしながら、恐怖で立ちすくんだ。
そして、視界が歪み、私の前に現れたのは、駅のホームに横たわる死体の数々だった。
彼らはかつてここを通った人々だった。
その死体の目が私を見つめ、彼らの声が次々と耳に響く。
「なぜ、私を……。」
その声に答えることはできなかった。
ただ、私は駅を逃げるように走り去った。
その後、私が駅から逃げ出してから、しばらくの間、家で落ち着けたかと思った。
だが、夜になると、またあの無人の駅の光景が頭に浮かび、恐怖に震えることが多くなった。
私は駅に近づかないように心掛けていたが、何度も何度も不意に思い出してしまった。
ある日、友人からその駅のことを聞かれた。
「無人の駅って、どんなところだった?」
友人の無邪気な質問に、私は一瞬言葉を詰まらせた。
「その駅は……本当に不気味だったよ。」
私は震える声で答えた。
その友人が言った。「でも、その駅、最近は廃駅になっているって聞いたよ。」
「廃駅?」
私は驚きながら聞き返した。
「本当に?」
友人はうなずいた。「うん。数ヶ月前に完全に閉鎖されたんだって。だから、もう誰もその駅には行けないよ。」
その言葉を聞いて、私は胸の中に深い謎の感覚を抱えた。
無人駅で起きた出来事が、すべて現実ではないように思えてきた。
あの不気味な声や影、あの引きずる音。すべてが本当にあったことだったのだろうか?
私はその駅が廃駅になったと聞いて、少しだけ安心したが、それでもあの駅に関する思いは消えなかった。
今でも、夜になると、無人の駅の音が遠くから響いてくるような気がしてならない。
それはまるで、駅の中にまだ何かがいるかのように……。

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