呪われた家

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呪われた家

呪われた家:誰も戻らぬ村の記憶

山奥にひっそりと佇む小さな村、「黒澤村」。その村の外れに建つ一軒の古びた家には、誰も近づこうとはしなかった。村人たちは「呪われた家」と呼び、遠巻きにその存在を恐れていた。

大学で民俗学を学ぶ高橋亮は、卒業論文のために地方の伝承を調査していた。ある日、彼は黒澤村に伝わる「呪われた家」の噂を耳にし、好奇心から現地を訪れることを決意する。

「本当に、あの家に行くつもりですか?」
村の案内人・田中は、亮の決意に顔を曇らせた。
「昔、あそこに住んでいた一家が全員、不審な死を遂げたんです。以来、誰が住んでも……必ず死ぬ。」

それでも亮は引き下がらなかった。
「僕は真実を知りたいだけです。何か証拠を見つけられるかもしれない。」

田中は渋々ながらも地図を渡し、
「絶対に夜には近づくな。何かあっても……助けに行けない。」
と忠告した。

翌朝、亮はカメラと録音機材を持って山道を登り、呪われた家へと足を踏み入れた。木々に覆われた細い道を進むと、朽ちかけた門と、荒れ果てた屋敷が現れた。

「……ここが、噂の家か。」
家の周囲には人の気配は全くなく、ただ風の音と木々のざわめきだけが響いていた。

内部に入ると、埃まみれの家具や、古びた仏壇が残されていた。壁には無数の札が貼られ、何かを封じようとした痕跡があった。

「……これは、何を封じたんだ?」
亮は札の一枚を剥がしてみた。その瞬間、家全体がわずかに軋み、まるで目を覚ましたかのように空気が変わった。

——カサカサ、カサカサ……。
床下から何かが這う音が聞こえる。亮は懐中電灯で照らしながら、慎重にその音の正体を追った。

「誰か……いるのか?」
返事はなかった。ただ、冷たい風が吹き抜け、札の剥がれた壁に赤黒い染みが広がり始めた。

突然、屋敷の奥から女性の笑い声が聞こえた。
「フフフ……やっと……来てくれた……。」

亮は凍りついた。
「誰だ!? 出てこい!」
だが返ってきたのは、扉が軋む音と、忍び寄る足音だった。

彼は音のする方向へ向かい、ふすまを開けた。そこには、真っ白な顔をした女性の霊が立っていた。長い黒髪を垂らし、虚ろな目で亮を見つめている。

「あなたも……私と同じに……なるの。」
そう言うと霊は消え、部屋全体に赤い手形が浮かび上がった。

亮は恐怖に駆られ、家から逃げ出そうとしたが、出口の扉はびくとも動かない。窓も、まるで何かに封じられたように開かない。

「くそっ……閉じ込められたのか……!?」
彼はパニックに陥る中、ふと床に置かれた日記を見つけた。それはかつてこの家に住んでいた家族のものだった。

日記にはこう記されていた。
「娘が見たという女の霊……。私たちは恐れ、毎夜、祈祷師を呼んだ。しかし……間に合わなかった。妻も娘も……取り憑かれ、狂い、そして死んだ。私も、もう長くはない。この家は呪われた。どうか、二度とこの家に近づかないでくれ……。」

日記の最後のページには、血で書かれた「呪」の一文字が滲んでいた。

突然、足元から手が伸び、亮の足を掴んだ。彼は必死に振り払い、叫んだ。
「やめろ……! 俺は関係ない!」

だが、耳元でささやく声が響いた。
「もう……逃げられない……。」

その瞬間、亮の意識は闇に包まれた——。

数時間後、亮は真夜中の闇の中で目を覚ました。あたりは異様に静かで、家の中の時間が止まったかのようだった。ふと見ると、自身の手に赤黒い紋様が浮かび上がっていた。

「これは……なんだ……?」
彼の体からは冷たい汗が流れ、心臓の鼓動が異常に早くなっていた。その時、鏡の中に自分ではない「誰か」が映っていることに気付く。

——それは、自分の姿をした女だった。
「私と、入れ替わろう……。」

鏡の中の女が手を伸ばし、亮の胸に触れた瞬間、彼は強烈な痛みに襲われた。
「ぐあああっ……!」

叫びとともに意識が再び闇へと沈んでいく——。

翌日、亮を探して村人たちが呪われた家を訪れたが、家は跡形もなく消えていた。そこにはただ、古びた日記と血で書かれた「また、来て……」という言葉が残されていた。

数日後、東京の大学にて、亮に似た姿の男が現れた。だが彼の目は虚ろで、口元には不気味な笑みが浮かんでいた。

「呪われた家」は消えたが、呪いは終わっていない——。その家は、また新たな犠牲者を探している。次に招かれるのは……あなたかもしれない。

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