夏の怪談
夏の怪談──消えた子供たちと祠の呪い
「なあ、知ってるか? あの山の奥にある祠、あそこに近づいた子供は皆いなくなるって──」
夏休みの夕暮れ、俺たち四人──拓也(たくや)、涼(りょう)、美咲(みさき)、そして俺、祐介(ゆうすけ)は、地元で噂されている怪談話を肴に集まっていた。
場所は、千葉県の外れにある小さな集落。ここには昔から「夏になると子供が消える祠(ほこら)」という話があった。
涼が笑いながら言った。
「それ、ただの作り話だろ? 実際に行ってみようぜ」
美咲が眉をひそめた。
「やめた方がいいよ……あの祠、本当に何かあるって村の人も言ってたし」
でも俺たちは、怖いもの見たさと好奇心で、夜にその祠を訪れることにした。
◇ ◇ ◇
夜9時、蝉の声も途絶え、月明かりだけが頼りの山道。虫の声と草を踏みしめる音だけが響く中、俺たちは祠を目指した。
「おい、あれか……?」
拓也が指差した先に、木々の間から小さな祠が姿を現した。
祠は朽ちかけた木材で作られており、その周囲には無数の子供の手形が赤く染みついていた。風鈴が風もないのに鳴り、冷たい空気が漂っていた。
「な、なんか……変な感じしないか?」
俺が言うと、美咲が怯えた声で言った。
「早く帰ろうよ……ここ、普通じゃないよ」
だが涼は笑いながら祠に近づいた。
「へっ、何もねーじゃん。ただの古い祠だろ?」
その瞬間、祠の扉がギィィ……と勝手に開いた。中には小さな鏡が置かれており、そこに涼の姿が映った。だが──鏡の中の涼は、笑っていなかった。
「お、おい……これ、なんだ……?」
突如、風が吹き荒れ、鏡の中の涼が動き出し、こちらを見た。
『……いっしょに……あそぼ……』
鏡の中から手が伸び、涼の腕を掴んだ。
「うわぁぁっ!!」
次の瞬間、涼は鏡の中に引きずり込まれ、姿を消した。
「涼!? おい、どこ行ったんだよ!?」
拓也が叫び、祠に駆け寄るが、そこに涼の姿はなかった。鏡は静かに元の位置に戻り、ただ涼の笑顔が映っていた。
「やばい……これ、本物だ……!」
美咲が泣きながら言った。俺も全身が震えていた。
◇ ◇ ◇
必死に山を下りた俺たちは、村の長老を訪ねた。事情を話すと、長老は深くうなずいた。
「その祠はな……昔、子供を神に捧げるために作られたものじゃ。戦時中、飢饉が続き、生贄として多くの子供が……」
「じゃあ……涼は……」
長老は厳しい表情で言った。
「祠に囚われた魂は、鏡を通じて現世に引きずり込もうとする。助けたいなら……鏡を割れ」
だが、ただ割るだけではダメだと言われた。祠で囚われた魂と対峙し、その呪いを解く必要があると。
翌夜、俺と拓也、美咲の三人は再び祠へ向かった。
鏡の前で、俺たちは叫んだ。
「涼! 返してくれ!お前、こんなところで終わるなよ!」
鏡がぼんやりと光り、涼の声が聞こえた。
『……たすけて……ここ……くらい……』
美咲が涙を流しながら鏡に手を伸ばした。
「涼……私たち、ずっと一緒だよ。帰ってきて……」
その時、鏡の中から無数の手が伸び、俺たちを掴もうとした。
「今だ!」
拓也が持ってきた金槌で鏡を叩き割ると、祠全体が揺れ、凄まじい叫び声が響いた。
「……おまえら……かえさない……」
だが、鏡が砕けると同時に、涼が祠の中に倒れていた。
「涼!生きてるか!?」
「……あぁ、なんとか……」
彼は無事だった。あの鏡に囚われていただけだった。
◇ ◇ ◇
それから祠は村の人々によって封印され、再び訪れる者はいなくなった。
夏の怪談──それはただの作り話ではなく、今もどこかで囁かれている現実の恐怖だった。
俺たちは、二度とあの祠に近づくことはない。
でも、夏の夜、風鈴の音が鳴るたびに、あの祠の声が聞こえる気がするのだ。
『……つぎは……だれ……?』

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