内臓の異形

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内臓の異形

内臓の異形

夜の病院ほど不気味なものはない。特に、廃墟と化した病棟には、かつての患者や医師たちの記憶が染み付いているようだった。

大学生の田中涼介は、都市伝説を研究するサークルに所属していた。今回の調査対象は、「内臓の異形」と呼ばれる怪異だった。それは、かつてこの病院で行われていた違法な人体実験によって生まれた存在だという。

「おい、本当に行くのか?」

友人の山本が不安そうに言った。

「もちろんだろ。せっかくの機会だ。噂が本当なら、すごい発見になるぞ。」

涼介は懐中電灯を片手に、病院の裏口から忍び込んだ。古びたドアが軋む音を立てる。室内は埃っぽく、壁にはひび割れが走っていた。

「ここが噂の『解剖室』か……?」

薄暗い廊下を進み、彼らは手術室にたどり着いた。部屋の中央には錆びた手術台があり、その周囲には血のような黒ずんだ染みが残っていた。

「な、なんだこれ……」

山本が震えながら指をさす。そこには、異様な形をしたホルマリン漬けの臓器が並んでいた。普通の人体のものとは違い、脈打つようにわずかに動いているように見えた。

「気のせい……だよな?」

その瞬間、背後でドアがギィィ……と音を立てて閉まった。

「……誰かいるのか?」

涼介が振り返るが、誰もいない。だが、妙な臭いが鼻を突いた。腐った肉のような、湿った血のような悪臭。

「う……」

山本が突然腹を押さえてうずくまる。

「おい、大丈夫か?」

だが、山本の顔は青ざめ、苦しそうに震えていた。

「腹が……内臓が……」

その言葉と同時に、山本の腹部が不自然に膨らんだ。まるで内側から何かが動いているかのように。

「まさか……」

涼介は恐怖で後ずさった。次の瞬間、山本の口から血が滴り、腹部の皮膚が裂けた。

そこから這い出てきたのは、異形の臓器だった。腸が自ら動き、触手のようにうねりながら涼介の方へ伸びる。

「嘘だろ……!」

涼介は悲鳴を上げ、必死に逃げ出した。手術室のドアを乱暴に開け、暗闇の廊下を駆け抜ける。

だが、廊下の先には、無数の臓器が蠢く影が立っていた。それは、かつて人体実験の犠牲になった者たちの成れの果てだった。

「……助けて……」

囁き声が響く。彼らはまだ、生きているのか。

涼介は壁際に追い詰められた。背後の窓を見上げると、そこにはかつてこの病院で働いていたとされる医師の姿があった。

「お前も……仲間に……」

医師の口元がゆっくりと開き、不気味な笑みを浮かべた。彼の白衣は血に染まり、瞳の奥には常人には理解できない狂気が宿っていた。

「やめろ!俺は……俺はこんなところで死にたくない!」

必死に抵抗しようとしたが、足がすくみ、動けない。異形の臓器が涼介の足に絡みつき、冷たく湿った感触が肌を這い上がる。

「内臓の……研究は……続けなければ……ならない……」

その言葉とともに、涼介の意識はゆっくりと薄れていった。

次に目を覚ましたとき、彼は暗闇の中にいた。手足は動かず、体は冷たく、重かった。

「……ここは……?」

自分の腹部を見下ろすと、そこには異様な縫い目が走っていた。皮膚が無理やり繋ぎ合わされ、何かが中に埋め込まれている感覚があった。

「やめろ……やめてくれ……!!」

しかし、涼介の叫びは誰にも届かない。彼はもう、人間ではなかった。

この病院の新たな「研究材料」として、彼は永遠に閉じ込められる運命にあったのだった。

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