メリーさんの電話
メリーさんの電話――深夜に鳴る恐怖の呼び出し
東京の郊外、古びたアパートの一室で、大学生の佐藤真由美(さとう まゆみ)は一人暮らしを始めて半年が経っていた。毎日が忙しく、夜遅くまで勉強に追われる日々。ある雨の夜、彼女は奇妙な電話を受けた。
――プルルルル……プルルルル……
時計は午前2時を指していた。こんな時間に誰から?そう思いながらも、真由美は受話器を手に取った。
「……はい、佐藤です」
受話器の向こうから、小さな少女の声が聞こえた。
「わたし、メリーさん。今、あなたの町にいるの」
「えっ……?」
何かのいたずらかと疑いながらも、真由美は電話を切った。だが、数分後、また電話が鳴る。
――プルルルル……
「……はい」
「わたし、メリーさん。今、あなたのアパートの前にいるの」
背筋が凍る。ドアの向こうに誰かいるのか?真由美は恐る恐るのぞき穴から外を見たが、誰の姿もなかった。
「気のせいよ、誰かのいたずらに違いない……」
そう自分に言い聞かせ、ベッドに戻ろうとしたその時――再び電話が鳴った。
――プルルルル……
受話器を取る手が震える。
「……だ、誰なの……?」
「わたし、メリーさん。今、あなたの部屋の前にいるの」
真由美は叫び声を上げ、受話器を放り投げた。部屋のドアに目をやると、影が揺れている。心臓が激しく鼓動を打つ。
ドアノブがガチャリと音を立てる。
「やめて……来ないで……!」
真由美は警察に電話しようとスマホを手に取った。しかし、画面には「着信中:非通知」と表示されている。
――プルルルル……
恐怖に震えながら、通話ボタンを押した。
「わたし、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」
反射的に振り向いた瞬間、冷たい風が部屋を吹き抜けた。そして、そこには――
赤いドレスに身を包み、長い黒髪を垂らした少女。目は虚ろで、手には古びた電話機を持っていた。
「……かえして……わたしの人形……」
真由美は気を失い、床に崩れ落ちた。
後日談――封じられた人形の記憶
翌朝、警察が駆けつけた時、真由美は無事だったが意識を失っていた。部屋の中には誰もいなかったが、奇妙なことに、机の上に古びた西洋人形が置かれていた。
それはかつて、幼い頃に真由美が捨てた人形――「メリー」だった。なぜ戻ってきたのかは誰にもわからない。ただ、その日以来、真由美の電話は二度と鳴らなかった。
そして、アパートの一室には噂が残った。
「深夜2時、電話が鳴ったら……出てはいけない。『メリーさんの電話』かもしれないから」
それは、東京の片隅で今も語り継がれる都市伝説。
過去と繋がる糸――メリーの真実
事件の後、真由美は自身の過去を辿り、メリーという人形について調べ始めた。幼少期、祖母の家に遊びに行った際に手にしたその人形は、祖母が若い頃に外国から持ち帰ったもので、奇妙なことに「人に取り憑く力がある」と噂されていた。
「おばあちゃん、この人形、怖い……」
かつて、幼い真由美がそう言って、人形を捨ててしまった過去を思い出した。
――あの時、わたしが捨てたから……
真由美は、人形に宿った怨念が今も消えずに彷徨っていることを悟る。そして、自分がその呪いを呼び寄せてしまったことに気づいた。
ある日、真由美は祖母の遺品から古い日記を発見する。そこには、祖母が若き日にメリー人形について記した内容が綴られていた。
「この人形は、人の心を映す鏡。持ち主の孤独や恐怖に反応し、彼女のもとに戻ってくる」
真由美は愕然とした。自分の孤独――それがメリーを呼び寄せたのだ。
封印の儀式――終わらぬ電話
真由美は人形を再び封印する方法を探し、神社の神主に相談する。神主は言った。
「その人形には強い念が宿っている。ただ封印するだけでは意味がない。謝罪と感謝の心が必要だ」
その夜、真由美は人形を手にし、ろうそくの灯りの下、静かに語りかけた。
「メリーさん……ごめんなさい。あなたを捨てたこと、ずっと忘れていた。でも、あなたは忘れなかったんだね」
人形の瞳が一瞬、光ったように見えた。そして――
――プルルルル……
再び電話が鳴る。真由美はゆっくりと受話器を取り、耳を傾けた。
「ありがとう……さようなら……」
その一言を最後に、電話は静かに切れた。そして、それ以降、真由美の部屋から電話の音は消えた。
物語は終わった。しかし、どこかで、誰かがメリー人形を捨てたなら――また電話が鳴るかもしれない。
――プルルルル……
その音が、あなたの耳元で響く日が来ないことを願って。

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