口裂け女の噂
口裂け女の噂:深夜の路地裏で見た恐怖の実話
「ねえ、知ってる?口裂け女って、まだいるらしいよ」
東京郊外にある小さな町、八坂町。その町には昔から「口裂け女」の噂が絶えない。特に中学生の間では、その話題は昼休みの定番だった。
主人公の拓海(たくみ)は高校2年生。都市伝説なんて信じていなかったが、ある晩、その噂が現実になる。
その日、拓海は塾の帰り道、人気のない裏路地を歩いていた。夜風が冷たく、街灯の光が微かに揺れている。その時、背後から「カツ、カツ…」とヒールの音が響いた。
振り向くと、マスクをした女が立っていた。ロングコートに長い黒髪。そして、目だけが異様に赤い。
「ねぇ、私、綺麗?」
拓海は驚きつつも答えた。「え…ええ、綺麗です…」
女は微笑むと、マスクを外した。
「これでも?」
その口は耳元まで裂け、赤黒い口紅のような血で染まっていた。拓海は恐怖で動けず、心臓の鼓動が耳に響く。
「…っ!」
逃げなきゃ――
だが足がすくんで動かない。女はゆっくりと鋏を取り出した。
「あなたの口も、裂けた方が綺麗よ」
その瞬間、近くの電灯がバチンと消えた。拓海は反射的に走り出す。路地を抜け、大通りまで全力で駆けた。
自宅にたどり着いた時、拓海の背中は汗でびっしょりだった。
「夢…だよな…」
しかし翌日、町では奇妙な事件が起きた。隣町の高校生が路地裏で気絶しているのが発見され、顔には深い傷が――口の端から耳元まで、裂けるような…。
「まさか…」
拓海の背筋に冷たいものが走る。ニュースでは「動物の仕業」と片付けられたが、拓海は確信していた。
「本当に、いるんだ…口裂け女は…」
夜になると、今でもあの音が耳に蘇る。「カツ、カツ…」とヒールの音。
町では未だに、その路地を避ける者が多い。噂は真実へと変わり、誰もが口を閉ざすようになった――裂けないように。
口裂け女の噂は、決してただの都市伝説ではない。
「次に狙われるのは…あなたかもしれない」
---
それから数日後、拓海の友人である健太(けんた)が不思議なことを言い出した。
「なあ、拓海。この前、裏通りで変な女に声かけられたんだ」
「……!」
「『ねぇ、私、綺麗?』って…冗談かと思って逃げたけど…顔がマジでやばかった」
「健太、そいつ…」
拓海は言葉を失った。健太の顔色は青ざめていた。
「追いかけてきたんだよ…鋏持ってさ…危うくやられるとこだった」
町で再び噂が広がり始めた。口裂け女は一人ではない。複数の目撃情報が出始め、ある者は駅のホームで、ある者は深夜のコンビニ前で、その姿を見たという。
「おい、あの女、最近町に出没してるってよ」
「マスクして、鋏持ってるんだろ?」
「見られたら最後だって…」
恐怖は町全体に広がり、人々は夜道を避けるようになった。
ある晩、拓海は夢を見た。あの女が家の前に立っている夢だ。窓の外から、赤い目がじっと自分を見つめている。
「見てる…どこにいても…」
目が覚めた時、窓ガラスに曇った指の跡が残っていた。
「誰かが…いた?」
警察は巡回を強化したが、何の手掛かりも見つからない。目撃者たちは皆、同じことを言う。
「女の顔は、見たら忘れられない」
「裂けた口が、夢に出てくる」
「そして…また現れる」
拓海は考えた。この恐怖から逃れるには、町を出るしかないのかもしれない。
しかし、その女はどこまでも追いかけてくるという噂があった。
「一度見られたら、逃げられない」
彼の恐怖は、終わりを迎えることなく続いていた。夜が訪れるたび、またあの音が聞こえる。
カツ、カツ、カツ……
口裂け女の噂は、生きている。そして、今夜もどこかの路地裏で、鋏を持った女が「ねぇ、私、綺麗?」と問いかけているのかもしれない――。

コメントを投稿