湖畔の霊
湖畔の霊
深夜の湖畔には、誰も近づこうとしなかった。その湖、「鏡湖」は、長い間呪われていると言われていた。
「おい、本当に行くのか?」
拓也は懐中電灯を握りしめながら、隣にいる翔太に尋ねた。
「当たり前だろ?この町に伝わる『湖畔の霊』の噂が本当か確かめたいんだ」
二人は町外れの湖へと足を進めた。湖畔には古びた鳥居が立っており、周囲は異様な静寂に包まれていた。
「なんか、空気が重いな…」
その時、背後から足音が聞こえた。振り向くと、白い着物を纏った女が、湖の方を指さして立っていた。
「うわっ!誰だ!?」
翔太が叫ぶ。しかし、女は何も言わず、すっと湖の中へと歩いて行く。そして、水面に消えた。
「今の…見たか?」
拓也は震えながらうなずいた。二人は急いで湖を後にしようとしたが、突然、水面から白い手が伸びてきた。
「助けて…」
その声が耳に響いた瞬間、二人は走り出した。しかし、耳元で囁く声がやまなかった。
「私を…探して…」
それからというもの、二人の周りでは奇怪な現象が続いた。夢の中で白い女が現れ、同じ言葉を繰り返す。
数日後、二人は町の老人から驚くべき話を聞いた。「昔、あの湖で一人の女性が投身自殺をしたんだ。彼女は…」
「彼女は何をしたんですか?」翔太が食い気味に尋ねる。
老人はため息をついて話し始めた。「彼女の名は美咲。戦前、この町の裕福な家の娘だったが、親が決めた許嫁との結婚を拒んだ。そして、愛する男性と駆け落ちしようとしたが、彼は突然姿を消した。悲しみのあまり、美咲は湖へ身を投げたと言われている。それ以来、あの湖では奇妙なことが起こるようになったんだ」
「じゃあ、あの女は…美咲の霊?」拓也は冷や汗をかいた。
「そうかもしれないな。ただ、彼女はまだ何かを探しているのかもしれない…」老人は遠くを見つめながら呟いた。
その夜、翔太と拓也は再び湖へ向かった。彼らは湖畔に立ち、美咲の霊が何を求めているのかを確かめようとした。
「美咲さん…あなたは何を求めているんですか?」拓也が湖に向かって声をかけると、湖面が揺れ始めた。
やがて、水の中からぼんやりとした人影が浮かび上がった。それは、美咲の霊だった。
「…探して…彼を…」
その言葉を聞いた瞬間、二人は凍りついた。美咲はまだ愛する人を探しているのだ。しかし、彼はもうこの世にはいない。
「でも…どうすればいいんだ…」翔太は震える声で呟いた。
その時、湖の向こう岸からもう一つの影が現れた。それは、古い軍服を着た男の霊だった。
「美咲…俺はここにいる…」
美咲の霊はその影を見つめると、ふっと微笑んだ。そして、二つの霊はゆっくりと消えていった。
翌朝、湖は静寂に包まれていた。翔太と拓也は、これで美咲の魂が救われたのだと確信した。
だが、その夜、二人の夢の中に美咲が現れ、こう囁いた。
「ありがとう…でも…まだ…」
美咲の本当の願いは、まだ果たされていないのかもしれない。
湖畔の霊は、今もそこにいるのだろうか…

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