家族の呪い
家族の呪い――血に染まる古屋敷の秘密
静岡県の山奥に、人里離れた古びた屋敷がある。その屋敷は「忌み屋敷」と呼ばれ、誰も近づこうとしない。理由は、そこに住んでいた「長谷川家」にまつわる恐ろしい呪いの伝説だった――。
大学で民俗学を学ぶ田村悠斗(たむら ゆうと)は、卒業論文の題材としてこの屋敷の調査を選んだ。興味本位で近づく者は皆、不幸に見舞われたというが、彼は警告を無視し、屋敷を訪れる決意をした。
「ここが……長谷川家の屋敷か」
古びた門を押し開けると、長い年月を経た木造の家屋が現れた。屋根は崩れ、障子は破れ、庭には手入れされないままの木々が生い茂っていた。だが、悠斗の目はその中心に据えられた古い仏壇に釘付けになる。
仏壇には、血のように赤い布が掛けられており、中央には異様に微笑む家族の写真が置かれていた。父、母、そして二人の子供――どの顔も、不気味なほど生気がなかった。
「……何か、おかしい」
悠斗は仏壇の奥にある引き出しを開け、中から古びた日記を見つける。それは、長谷川家の長男・真一によって書かれたものだった。
『父は夜な夜な誰かと話している。母は笑わなくなった。妹は……どこへ行ったのだろう。』
読み進めるにつれ、長谷川家に異変が起こっていたことが明らかになる。どうやら、家族の誰かが、禁忌の儀式に手を染めたようだった。
「……これか。封じられた儀式の記録……」
悠斗は仏壇の裏から、何かが書かれた巻物を見つける。そこには「血縁断ちの儀式」と記されていた。内容は、家族の絆を切り裂くことで富と権力を得るという、異常な儀式だった。
その時、屋敷内から誰かの足音が響いた。悠斗は振り返るが、誰もいない。しかし、仏壇の写真が一人でに倒れ、血のような液体が滲み出す。
「……逃げた方がいい……」
そう思った瞬間、彼の耳に子供の笑い声が響いた。
「あそぼうよ、お兄ちゃん……」
振り向くと、そこには写真に写っていた少女が立っていた。顔は笑っているが、目は虚ろで黒く染まっている。
「来てくれたの……うれしいな……一緒に、儀式をしよう?」
悠斗は叫びながら屋敷から逃げ出そうとしたが、扉は閉ざされていた。壁には赤い手形が次々と現れ、彼の名を呼ぶ声が響く。
「ゆうと……ゆうと……家族になろう……」
悠斗は必死に逃げながら、日記の最後のページを読み返す。
『妹はもういない。父は自ら命を絶ち、母は狂った。儀式は終わったはずなのに、誰も救われなかった。』
その瞬間、屋敷の天井から縄が垂れ下がり、そこには首を吊った家族の幻影が揺れていた。悠斗は耐えきれず叫び声を上げ、部屋の中央に崩れ落ちた。
「なぜ……なぜこんなことを……」
その時、彼の前に、長谷川家の父親が現れた。
「我が家は……呪われたのだ。だが、新しい血が来た……お前だ……」
悠斗の体に冷たい手が触れ、意識が遠のく。最後に聞こえたのは、家族全員の笑い声だった。
――数日後、悠斗の姿は消え、屋敷の仏壇には新たな家族写真が飾られていた。そこには、悠斗が不自然な笑みを浮かべて写っていたという。
それからというもの、「忌み屋敷」には、また一人「家族」が増えたという噂が流れ始めた――。
――翌朝。
村の住民である老人・川口清(かわぐち きよし)は、久しぶりに屋敷近くの山道を通った。屋敷の方から微かに人の声がした気がして、彼は不安げに立ち止まる。
「また、誰か行ったのか……あそこに……」
川口はかつて長谷川家と関わりがあった人物で、屋敷で起きた悲劇を知る数少ない生存者だった。40年前、幼き日の彼は、長谷川家の子供たちと遊び、あの家で何が起きたのかを目の当たりにした。
「あのとき、儀式を止めていれば……」
川口の脳裏には、かつて家族が集い、笑顔で過ごしていた長谷川家の姿が蘇る。しかし、あの呪われた夜、家族は狂気に陥った。父は「血縁断ちの儀式」を始めたが、その代償として魂は呪われ、死してなおこの世を彷徨うこととなった。
「儀式が続いているのなら……新たな犠牲が……」
老人は震える足を押し出し、屋敷へ向かった。山道を進むにつれ、空は曇り、異様な冷気が漂う。屋敷の門の前に立つと、無数のカラスが飛び立ち、不気味な羽音を残して消えた。
「……悠斗という学生が行ったと聞いたが……まさか……」
門を開け、屋敷に足を踏み入れた瞬間、川口の足元に何かが落ちた。それは、血に染まった写真だった。写真には、長谷川家の面々に加えて、悠斗が写っていた。
「まさか……もう……」
屋敷内は異様に静まり返っていた。川口はかつて自分が遊んだ座敷に向かいながら、心の中で何度も謝罪の言葉を唱えた。
「済まなかった……皆……止める力が……なかった……」
座敷に入ると、仏壇の前で微笑む悠斗の幻影が立っていた。目は虚ろで、手には巻物を持っていた。
「おじいさん……来てくれたんだね……やっと、家族がそろった……」
「悠斗くん……!戻ってこい……!」
川口は手を伸ばしたが、その手は悠斗の身体をすり抜け、宙に消えた。そして、仏壇からは長谷川家全員の声が響く。
「ようこそ……川口さん……あなたも……家族……ですよ……」
屋敷全体が軋む音を立て、壁には無数の手形と目玉が浮かび上がる。川口は悲鳴を上げながら屋敷を飛び出し、坂道を転げ落ちた。
翌日、川口は村人に発見されたが、言葉を失い、ただ震え続けた。彼の手には、あの写真が握られていた。
――その写真の中では、川口までもが長谷川家の隣に並び、不自然な笑みを浮かべていたという。
村には再び「家族が増えた」という噂が広まり、忌み屋敷には誰も近づかなくなった。そして今も、夜な夜な屋敷からは子供の笑い声と共に、「家族になろうよ……」という声が響くという。
――あなたがその声を聞いたなら、もう逃げられない。
呪いは続いている。

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