鏡に映る顔

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鏡に映る顔

鏡に映る顔

「この鏡、呪われてるんじゃない?」

大学生の彩花(あやか)は、引っ越したばかりのアパートで奇妙な鏡を見つけた。それは、部屋の片隅に置かれていた古びた姿見(すがたみ)で、木製のフレームには繊細な彫刻が施されていた。まるで誰かが長年大切にしていたような雰囲気を醸し出していた。

「なんでこんなところに…?」

引っ越す前の住人が置いていったのだろうか。触るのも少し躊躇したが、彩花は鏡の前に立ち、自分の姿を映してみた。だが、何かが違う。鏡の中の自分の顔が、ほんの一瞬だけ別のものに見えた気がした。

「……気のせい?」

そう思い直し、荷解きを再開することにした。しかし、それから奇妙な出来事が続いた。

深夜、寝ていると何かの気配で目が覚めた。薄暗い部屋の中、鏡の方から何かが動いたような気がする。恐る恐る目を向けると、鏡の中に自分が立っている。しかし、それは明らかに「自分」ではなかった。

「……誰?」

鏡の中の“彩花”はじっとこちらを見つめ、不自然なほどに微笑んでいた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「……いれて……」

心臓が跳ね上がる。

「えっ……?」

鏡の中の“彩花”は、今度は笑顔を崩し、じわじわとこちらに近づいてきた。だが、彩花は動くことができなかった。足がすくんでしまい、息をするのも苦しい。

「ねぇ……かわって……」

その瞬間、彩花は悲鳴を上げた。

「やだ!!」

叫ぶと同時に、鏡の中の存在はスッと消えた。部屋は静寂を取り戻したが、彩花の鼓動は激しく打ち続けていた。

***

次の日、彩花は大学の友人・美咲(みさき)にこの出来事を話した。

「そんな怖いことがあったの? それ、マジでヤバいやつじゃない?」

美咲は興味津々といった様子だったが、彩花は本気で怯えていた。

「あの鏡、なんかおかしいの。引っ越す前の住人が置いてったものだと思うけど……。」

「だったら、処分しちゃえばいいじゃん。」

美咲の提案に、彩花は少し考えたが、捨てるにしてもどうすればいいのかわからなかった。

「じゃあさ、今日うち泊まりにくる? ひとりでいるの怖いでしょ?」

「……うん、そうする。」

彩花は美咲の家に泊まることにした。だが、その夜──。

夜中、目が覚めると、部屋の隅に鏡が置かれていた。

「え……?」

そんなはずはない。鏡はアパートに置いてきたはずなのに……。

「ふふふ……」

背筋が凍るような笑い声が聞こえた。彩花は恐る恐る鏡を覗き込む。

そこには──。

自分の顔をした、別の何かが映っていた。

「……かわって……。」

彩花の口が、勝手に動いた。

──気がつくと、彩花は鏡の中にいた。

鏡の外には、「もう一人の彩花」が立っていた。にやりと笑うと、ゆっくりと部屋を出て行った。

「まって!!」

叫んでも、声は届かなかった。

その日以来、彩花の姿を見た者はいなかった。

そして、美咲の家に新しい鏡が現れたという……。

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