自殺の名所
自殺の名所
夜の帳が下りた頃、大学生の健太と友人の翔太は、ある噂を確かめるために山奥へ向かっていた。その場所は、地元で「自殺の名所」と呼ばれ、過去に多くの人々が命を絶ったという。
「なあ、本当に行くのか?こんな時間に……」
健太が不安そうに言うと、翔太はスマホのライトをかざしながら笑った。
「怖いなら帰ってもいいぞ。でも、お前も興味あるんだろ?」
二人は細い山道を進み、やがて鬱蒼とした森の中にたどり着いた。そこには古びた鳥居があり、その奥にポツンと一本の木が立っていた。
「ここか……」
翔太が呟いた。その木には、無数の布切れや古びたロープが絡みついており、不気味な雰囲気を漂わせていた。
「この木で多くの人が……?」
健太がゴクリと唾を飲み込む。すると、突然、背後から冷たい風が吹き抜けた。
「……やめよう。帰ろうぜ、翔太」
だが、翔太はその場に立ち尽くし、じっと木を見つめていた。
「なあ、何か聞こえないか?」
健太が耳を澄ますと、確かに微かに誰かのすすり泣く声が聞こえた。辺りを見回したが、誰の姿もない。
「……帰るぞ!」
健太は翔太の腕を掴んだ。だがその瞬間、木の上から「ギギ……」とロープが軋むような音が響いた。
二人が見上げると、そこには、首を吊った女の姿があった。
「うわあああ!!」
二人は叫びながら山を駆け下りた。だが、どれだけ走っても、同じ鳥居の前に戻ってしまう。
「どうなってるんだ……!?おかしいだろ!」
翔太が叫ぶと、今度は背後から足音が聞こえた。振り向くと、さっきの女がゆっくりとこちらに向かってきていた。
「……一緒に、来て……」
青白い顔に、虚ろな目。口元には黒い液体が滴り落ちていた。
健太は絶叫し、意識を失った。
翌朝、地元の住民に発見されたのは、気を失った健太だけだった。翔太の姿はどこにもなかった。
その後、翔太は行方不明となり、今でもその木の下で彼の名を呼ぶ声が聞こえるという……。
しかし、健太が無事に帰宅した翌日、彼の部屋で奇妙なことが起こり始めた。夜になると、窓の外からかすかに「ケンタ……」という声が聞こえてくる。
最初は気のせいだと思ったが、毎晩その声は少しずつ近づいてきた。
ある夜、眠れぬまま布団に潜っていた健太は、耳元で囁かれた。
「……一緒に、来て……」
飛び起きた健太は、部屋の隅に翔太の姿を見た。しかし、その顔は異様に白く、笑っているような表情を浮かべていた。
「翔太……?」
その瞬間、翔太の顔が歪み、青黒い影に包まれた。そして、健太の足を掴みながら、低く囁いた。
「一緒に、あの木の下へ……」
必死に振りほどこうとするが、翔太の手は冷たく、まるで氷のようだった。
健太は意識が遠のく中、最後に聞いたのは、翔太の哀しげな声だった。
「……一人じゃ、寂しいんだ……」
翌朝、健太の姿は消えていた。
地元の人々が再び「自殺の名所」を訪れると、あの木の下には、新しいロープが一本垂れ下がっていたという……。

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