百物語の呪い
百物語の呪い
深夜、大学のオカルト研究会のメンバー五人が、廃墟となった古民家に集まった。目的は、江戸時代から伝わる「百物語」を実際に試すことだった。
「百物語って、本当にやばいのかな?」
不安げな表情を浮かべたのは、最年少の直人だった。彼は霊感が強く、こうした怪談話にはあまり関わりたくなかった。しかし、友人の圧力に負け、仕方なく参加していた。
「迷信だよ。ただの遊びさ。でも……面白い話を持ってきたよ」
そう言って笑ったのはリーダーの慎吾だった。彼はオカルトに関する知識が豊富で、怖い話を語るのが得意だった。
五人は囲むように座り、蝋燭を百本灯した。怪談を一つ語るごとに一本の蝋燭を消し、最後の蝋燭が消えた瞬間、本物の怪異が現れるというのが百物語の伝承だった。
話が進むにつれ、部屋の空気が重くなっていくのを皆が感じていた。蝋燭は次々に消え、九十九本目の話が終わる頃には、部屋はほぼ真っ暗になっていた。
「最後の話は……俺がするよ」
慎吾はそう言うと、一瞬、躊躇した。しかし、彼は意を決して話し始めた。
「これは、ある村で実際に起きた話だ。百物語を試みた若者たちが、最後の話を終えた瞬間、一人ずつ消えていったんだ」
その瞬間、蝋燭の炎が揺れ、窓の外から何かがこちらを見ている気配がした。
「おい、冗談はよせよ……」
直人が震える声で言った。すると、慎吾の目が大きく見開かれた。
「今、誰かの声がしなかったか?」
その言葉と同時に、最後の蝋燭がふっと消えた。
一瞬の沈黙。そして、真っ暗闇の中で、はっきりと聞こえた。
「……ワタシモ、イレテ……」
直後、部屋の中の空気が変わった。まるで見えない何かが入り込んできたようだった。誰も動くことができない。
突然、「ドンッ!」と大きな音が鳴り響いた。窓の外から何かがぶつかってくるような衝撃だった。
「何だよ、これ……」
勇気を振り絞って慎吾が懐中電灯を取り出し、窓の外を照らした。しかし、そこには誰もいなかった。ただ、古びた障子に濡れた手形が残されていた。
「やばい、帰ろう!」
直人が立ち上がった瞬間、彼の足が止まった。何かに引っ張られるような感覚に襲われたのだ。
「おい、直人、大丈夫か?」
友人たちが慌てて彼に駆け寄ろうとしたが、その瞬間、部屋の中の温度が急激に下がった。息が白くなるほどの冷気に包まれ、全員の背筋が凍りついた。
「……いる。ここに、何かが……」
その言葉を最後に、直人の身体が後ろに引きずられた。何もないはずの床の上を、誰かが無理やり引きずるようにして、闇の中へと消えていった。
「直人!!」
慎吾たちはすぐに部屋を飛び出した。外は月明かりだけが頼りだったが、周囲には直人の姿はなかった。代わりに、廃屋の庭に続く道に、濡れた足跡が点々と続いていた。
「追いかけるしかない!」
慎吾たちは恐怖に駆られながらも、足跡を追いかけた。しかし、それは屋敷の裏手にある井戸の前で途切れていた。
「まさか……」
慎吾が恐る恐る井戸の中を覗き込むと、暗闇の中に何かが動いた。そして、ゆっくりと、長い髪の白い顔が水面に浮かび上がった。
「ワタシモ、イレテ……」
その瞬間、慎吾たちは悲鳴を上げて逃げ出した。
翌朝、警察が廃墟を調査したが、直人の姿はどこにもなかった。ただ、井戸の底からは百年前の村人たちの白骨が発見されたという。
それ以来、誰も百物語を最後まで語ろうとしなくなった。

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