廃病院の悪夢
廃病院の悪夢
都心から少し離れた郊外に、長年放置されたままの廃病院があった。その病院は、かつて不可解な事件が相次いで発生し、患者や医師が次々と行方不明になったことから、突如閉鎖されたという。地元では「呪われた病院」として恐れられ、誰も近づこうとはしなかった。
しかし、好奇心旺盛な大学生・佐藤翔太(さとう しょうた)は、都市伝説を確かめるために友人の田中直樹(たなか なおき)、鈴木舞(すずき まい)と共に、その廃病院へ足を踏み入れることを決めた。
「本当に何かがいるなら、それを証明してみせるよ。」翔太は意気込んでカメラを手にした。
「怖がらせるのはやめてよ。」舞は不安げに周囲を見回した。
「まあ、何もなかったらそれでいいじゃん。」直樹は軽い調子で笑った。
三人は夜になるのを待ち、懐中電灯を片手に病院の中へと入った。
――廃病院の中は、異様なほど静まり返っていた。足元に転がる錆びた医療機器、破れたカーテン、そして壁に残された古びた血の跡。空気は湿っており、かすかに薬品の匂いが残っている。
「ここ、本当にやばい感じがする……。」舞は小さく呟いた。
「大丈夫だって。ほら、奥の病室を調べてみよう。」翔太は先頭に立って歩き出した。
三人は一つずつ部屋を覗いていった。どの部屋も荒れ果てており、ベッドや医療道具がそのまま放置されている。やがて、彼らは手術室にたどり着いた。
「……何か、聞こえないか?」直樹が足を止めた。
「え?」翔太と舞も耳を澄ませる。
確かに、何かが微かに聞こえた。……すすり泣くような、声。
「冗談でしょ……?」舞の手が震える。
「誰かいるのか?」翔太がカメラを構え、手術室の中を映した。
その瞬間――
『カシャッ!』
カメラのフラッシュが暗闇を照らした。そして、その光の中に、明らかに人ではない何かが立っていた。
長い黒髪、真っ白な病衣、青白い顔。目だけが異様に黒く、大きく開かれていた。
「うわああああ!!」
翔太が叫び、舞と直樹も悲鳴を上げた。その存在はじっと彼らを見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「……助けて……」
だが、その声は不自然に歪んでいた。まるで何人もの声が混ざり合ったような、不気味な響きだった。
「逃げるぞ!!」直樹が叫び、三人は一斉に駆け出した。
だが、走るうちに彼らは異変に気づいた。
――出口がない。
確かに入ってきたはずのドアが消えていたのだ。病院の廊下は無限に続いているかのように長く、どこを曲がっても同じ景色が広がっていた。
「嘘だろ……?!」翔太が息を切らしながら呟く。
その時、背後から足音が聞こえた。
「……カツ……カツ……カツ……」
ゆっくりと、それでいて確実に近づいてくる音。
「来る……!!」
直樹が振り向いた瞬間、目の前に『それ』が立っていた。
「……あなたも……患者……?」
そう囁くと同時に、『それ』の顔が激しく歪み、黒い霧のようなものが広がった。
「嫌だ……!!」
翔太は必死に走った。舞の手を引き、直樹も必死で後を追う。
やがて、彼らは再び手術室にたどり着いた。
「ここは……さっきの場所……?」
だが、今度の手術室には手術台の上に一人の男が横たわっていた。血まみれの白衣を着た医師が、その男をメスで切り裂いていた。
「助けて……助けてくれ……!」
その声に翔太は愕然とした。
――それは、直樹の声だった。
「嘘だ……直樹……?!」
横を見ると、直樹は確かに翔太の横にいる。だが、手術台の上の『直樹』は苦しそうにもがいている。
「どっちが本物……?」舞が震える声で言った。
「俺はここにいる!!」直樹が叫ぶ。
だが、その瞬間、手術台の上の『直樹』が笑った。
「お前たちも……こっちへ……来るんだよ……。」
突然、部屋全体が激しく揺れ、壁が崩れ始めた。
「もう無理だ!!」翔太は舞と直樹の手を引き、手当たり次第に扉を開けた。
――そして。
彼らは気がつくと、病院の外に立っていた。
朝日が昇り、夜の恐怖が嘘のように消えていた。
「生きてる……?」舞が呆然と呟いた。
「……わからない……でも……」翔太は震える手でカメラを取り出した。
カメラの画面には、手術台の上の直樹の姿が、静かに彼らを見つめていた。
(完)

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