血まみれの鏡
血まみれの鏡
「この鏡には、呪いがあるんだって……。」
深夜の学校。人気のない旧校舎に、ひとりの女子高生が立っていた。名前は、佐々木由美。
彼女は息を呑みながら、薄暗い倉庫の奥にある大きな古びた鏡を見つめていた。
「……これが、あの噂の鏡?」
古びた鏡の表面には、無数のひびが走っていた。誰かが無理に隠そうとしたのか、布が無造作にかけられていたが、長年の放置で埃まみれになっている。
「『血まみれの鏡』……。」
この学校には、こんな噂がある。
「旧校舎の倉庫には呪われた鏡がある。その鏡を真夜中に覗き込むと、自分ではない誰かが映る。」
噂によれば、数十年前、ある女生徒がこの鏡の前で自殺したらしい。以来、この鏡には彼女の霊が宿り、夜な夜な鏡の中から現れるのだという。
「……そんなの、ただの作り話でしょ?」
由美はそう言いながらも、心臓が高鳴るのを感じた。
友達に「絶対に一人でやるなよ!」と止められたが、怖い話が好きな彼女は、どうしても確かめたくなったのだ。
「……ふふ、馬鹿みたい。」
意を決して、由美は鏡の前に立ち、ゆっくりと布を剥がした。
——ギィ……。
古びた布が床に落ちると同時に、鏡に映る自分の姿が目に飛び込んできた。
「……なんだ、普通の鏡じゃん。」
少し拍子抜けしながら、彼女は鏡をじっと見つめる。
しかし——
「……あれ?」
鏡に映る自分の目が、微かに揺らいだ気がした。
——いや、それだけじゃない。
鏡の向こうの「自分」が、ほんの少しだけ口角を上げたように見えた。
「……え?」
驚いて目を擦るが、鏡の中の自分は変わらない。
「……気のせい?」
由美は深呼吸して、もう一度じっと鏡を覗き込んだ。
……その瞬間。
——ニタァ……。
鏡の中の「自分」が、異様な笑みを浮かべた。
「ひっ……!」
驚いて後ずさる。
すると——
「トン……トン……」
鏡の向こう側から、何かが叩く音がした。
「誰……?」
由美の声は震えていた。
その時、鏡に映る「自分」の手が、スッと動いた。
——いや、違う。
「自分」と思っていたそれは、もう「由美」ではなかった。
髪が長く、白い肌。血の涙を流しながら、不気味な笑みを浮かべていた。
「きゃああああ!!」
由美は悲鳴を上げ、鏡から離れようとした。
だが——
「トン……トン……」
鏡の向こうの「それ」が、再びガラスを叩く。
「……だして……。」
小さな、囁くような声。
「……ここ、さむいの……。」
由美はもう動けなかった。
「やだ……やだ……!!」
涙を流しながら、必死に後ずさる。
「……いっしょに……なろう?」
鏡の中の少女が、にっこりと微笑んだ。
その瞬間——
——バンッ!!!
鏡が割れ、無数の手が飛び出してきた。
「きゃああああ!!!」
由美は叫び、全力で逃げ出した。
——バタンッ!!!
倉庫の扉を開け、廊下を駆け抜ける。
「いやだ!!助けて!!!」
涙を流しながら走るが、背後から何かの気配を感じた。
「……まって……」
ひそやかな声が耳元で囁く。
——カチッ。
廊下の電気が、一瞬で消えた。
「……!!」
真っ暗な中、由美は息を殺した。
「……やだ……。」
彼女は震えながら、スマホのライトをつけた。
——その光の中。
目の前に、さっきの少女が立っていた。
「!!!」
由美は声を上げる暇もなかった。
少女の白い手が、スッと由美の頬を撫でる。
「……おかえり……。」
そして——
——ザクッ!!
由美の悲鳴が、闇に消えた。
……翌朝。
旧校舎の倉庫で、一人の女生徒が倒れているのが発見された。
彼女の顔は——
まるで、何かに怯えたまま、固まっていた。
そして——
「血まみれの鏡」は、また静かにそこに佇んでいた。
……次の「誰か」を待ちながら。
(終)

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