肉体の変化
肉体の変化
東京の片隅にある小さなアパートで、一人暮らしをしている佐々木翔太(ささきしょうた)は、最近、奇妙な体の異変を感じていた。
最初は些細なものだった。肌がかゆくなる程度。しかし、それは次第に悪化していき、ある夜、彼の体に恐ろしい変化が起こった。
その日は仕事で遅くなり、夜中に帰宅した翔太は、疲れ果てた体を引きずるようにしてベッドに倒れ込んだ。部屋の電気もつけず、そのまま眠りについた。
——ズル……ズル……。
深夜、何かが動く音で目を覚ました。
「……なんだ?」
暗闇の中、翔太は体を起こした。音のする方へ目を凝らす。すると、月明かりに照らされた自分の腕が、奇妙なほど膨れ上がっているのが見えた。
「な……何だよ、これ……!」
翔太は慌てて電気をつけた。腕の皮膚が膨らみ、脈打つように波打っている。そして、皮膚の下で何かが蠢いていた。
「痛い……!」
激痛が走った。腕を押さえると、皮膚の下で動く何かが、より激しく暴れだした。
——ズルッ。
突然、皮膚が裂け、中から黒い何かが飛び出した。
「うわぁぁぁ!!」
翔太は叫びながら腕を振り払った。だが、黒い物体は彼の指先に絡みつき、まるで意思を持っているかのように蠢いた。
「何なんだよ、これ……!」
恐怖に震えながら、彼は洗面所へ駆け込んだ。鏡を見ると、腕だけではなく、首筋にも同じ黒い膨らみが現れ始めていた。
——ズズ……ズルッ……。
「やめろ……! やめてくれ……!」
翔太は爪で必死に皮膚を引っかいた。しかし、黒い物体はさらに体中に広がり、彼の意識が徐々に薄れていった。
その時、鏡の中の自分が、にたりと笑った。
「……やっと、本当の姿になれるな。」
翔太は声にならない悲鳴を上げ、意識を失った——。
翌朝、目を覚ました翔太は、汗だくになっていた。しかし、腕を見ても、昨夜のような異変はない。夢だったのか……?
安心しながらも、彼は違和感を覚えた。体が異様に重い。立ち上がろうとすると、足が異様に長くなっていることに気づいた。
「え……?」
翔太は恐る恐る鏡の前に立った。そして、そこに映っていたのは、自分とは思えない異形の姿だった。
肌は青黒く変色し、指は異様に長く伸び、骨が浮き出たようになっている。目は異様に大きく、口元から黒い粘液が滴っていた。
「う、嘘だろ……!」
翔太は恐怖のあまり、後ずさった。しかし、その瞬間、背中から何かが突き出た。肩甲骨が破れ、大きな黒い触手のようなものが生え始めていた。
「助けて……助けてくれ!!」
絶叫した翔太は、部屋を飛び出した。しかし、外へ出ると、周囲の人々が一斉に彼を見た。
「あれ……おい、あれは……!」
「怪物だ!!」
誰かが叫び、瞬く間に周囲の人々が逃げ惑った。
「違う!俺は翔太だ……!」
必死に叫ぶが、誰も信じない。それどころか、彼の声は異様に低く、まるで別の生き物の唸り声のようだった。
その時、後ろから警報の音が鳴った。数人の警察官が彼を取り囲み、銃を構えていた。
「動くな!手を上げろ!」
「違う……俺は人間だ……!」
翔太は後ずさった。しかし、彼の動きに反応するように、背中の触手が大きく広がり、警察官の一人を一撃で吹き飛ばした。
「違う!俺じゃない!!」
しかし、翔太の意識は徐々に薄れていった。何かが、彼の精神を支配し始めていた。
——もう抵抗するな……。
どこからか声が響く。
——お前はもう、人間じゃない……。
「違う……違う……!」
しかし、意識が完全に闇に包まれると同時に、翔太の体は黒い塊へと変わり、形を失っていった。
最後に彼が見たのは、警察官たちの恐怖に満ちた目と、夜空に浮かぶ月だった。
それから数日後——。
東京の郊外で、奇妙な噂が囁かれ始めた。
「夜道を歩いていると、奇妙な影がついてくるんだ……。人間じゃない、何かが。」
「そいつ、まるで人間みたいに喋るらしいぜ……。」
「……助けてくれって。」
こうして、佐々木翔太という男の名は、都市伝説となって人々の間に語られるようになった。
だが、その噂は、まだ続いている——。

コメントを投稿