消えた家族
消えた家族:廃村に潜む闇
都心から遠く離れた山奥に、「日影村」という小さな集落があった。そこには数軒の家が並び、昔ながらの静かな生活が営まれていた。しかし、ある日突然、その村に住んでいた家族全員が忽然と姿を消した。
この奇妙な事件を調査するため、フリージャーナリストの田中翔平は村へ向かった。廃村となった日影村に足を踏み入れると、時間が止まったかのような静寂が支配していた。家々には生活の痕跡が残っているが、人の気配はまったくない。
「まるで昨日まで誰かがいたみたいだ…」翔平は呟いた。
彼が最初に訪れたのは、村の中心にあった「佐々木家」の家だった。玄関の戸は開いており、中に入ると、茶碗や箸が食卓に並んだままだった。まるで、食事の途中で何かに襲われたかのように。
「これは…?」翔平は棚の上に置かれた家族写真を見つけた。両親と二人の子供が並んで微笑んでいる。しかし、写真をよく見ると、奇妙なことに気がついた。
「子供の影がない…?」
その瞬間、「ギィ…」と床が軋む音がした。翔平は反射的に振り向いたが、そこには誰もいなかった。
彼は気味の悪さを感じながらも、調査を続けることにした。次に訪れたのは、村の資料館だった。埃をかぶった書物や古い記録が並ぶ中、翔平はある古文書を発見した。
「日影村の掟…?」
そこにはこう書かれていた。
「この村には“カミサマ”が棲む。カミサマの怒りに触れた者は、家族ごと消える。」
「家族ごと…消える?」翔平は背筋が凍るのを感じた。
すると突然、外から子供の笑い声が聞こえてきた。「くすくす…くすくす…」
翔平が外に出ると、誰もいないはずの村の広場に、白い服を着た子供たちが立っていた。しかし、次の瞬間、彼らの姿は霧のように消えた。
「…嘘だろ?」
慌てて写真を確認すると、最初に見た佐々木家の写真の子供たちが、笑顔のままこちらを見つめていた。しかし今度は、両親の姿が消えていた。
翔平は恐怖に駆られ、村を飛び出した。しかし、どれだけ走っても出口が見つからない。気がつけば、彼は再び村の中心に戻っていた。
「ここから出られない…?」
その瞬間、彼の背後から囁く声が聞こえた。「いっしょに、あそぼ…」
翔平の叫び声が、霧の中に消えていった。
翔平が目を覚ますと、彼は村の中央にある古びた祠の前にいた。どうやら意識を失っていたらしい。周囲を見回しても、子供の姿はどこにもない。しかし、祠の扉は開いており、中には古ぼけた紙が一枚、置かれていた。
震える手でそれを拾い上げると、そこにはこう書かれていた。
「日影村の者は、カミサマの加護を受け、カミサマのもとへ還るべし」
「還る…?」
その瞬間、祠の奥から低いうめき声が響いた。まるで、何かが長い間閉じ込められていたかのような声だった。翔平は後ずさりしながら、祠の内部を覗き込んだ。
そこには、無数の人影がうごめいていた。
彼らは一斉に顔を上げ、暗闇の中から白い目をぎらつかせながら翔平を見つめた。
「……おかえりなさい」
その瞬間、翔平の視界は暗転した。
――翌朝。
日影村を訪れた新たな調査員が、村の中央で奇妙なものを見つけた。古びた祠の前に、一冊のノートが落ちていたのだ。
ノートの表紙には、かすれた字でこう書かれていた。
「田中翔平の記録」
しかし、ノートをめくっても、中のページはすべて真っ白だった。
そして、その日から、日影村では新たな囁き声が聞こえるようになった。
「いっしょに、あそぼ…」

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