家族の秘密
家族の秘密
夏の終わり、大学生の浩介は久しぶりに実家へ帰省した。両親と妹の美咲が住む古い家は、どこか薄暗く、かすかに湿った匂いが漂っていた。
「おかえり、浩介。」
「実際の話に基づいて、名前と場所は隠されています。」
母親が笑顔で迎えてくれたが、その表情にはどこか違和感があった。美咲も顔を出したが、目が合うとすぐに視線をそらした。
「なんだよ、久しぶりなのに冷たいな。」
美咲は何も言わずに二階へ駆け上がった。
夕食時、父親はいつもより無口だった。家族で囲む食卓には、妙な緊張感が漂っていた。浩介が違和感を覚えながら箸を動かしていると、ふと天井裏から微かな物音がした。
「ねえ、今の音……?」
浩介が尋ねると、母は急に笑い出した。
「ああ、古い家だからね。風のせいよ。」
しかし、その笑顔がどこか引きつっているように見えた。
夜、浩介は自室で寝ようとしたが、どうにも寝つけなかった。すると、また天井裏から音が聞こえた。何かが這い回るような音。まるで誰かがそこにいるかのような……。
「まさか……ネズミ?」
だが、その音は異常だった。ネズミの足音とは思えないほど重く、時折低いうめき声のようなものも混じっていた。
浩介は懐中電灯を持ち、意を決して天井裏への梯子を登った。古びた木の扉をそっと開けると、暗闇の中で何かが蠢いた。
「……誰かいるのか?」
光を当てた瞬間、浩介は凍りついた。そこには……痩せこけた人影がうずくまっていたのだ。
「お兄ちゃん……助けて……。」
それは、美咲だった。しかし、彼女はさっきまで二階にいたはず。では、あの夕食時に見た美咲は……?
「うそだろ……?」
美咲の顔は青白く、骨と皮だけのように痩せ細っていた。その足には鎖が巻かれている。浩介は恐怖で声も出なかった。
「ねえ、早く逃げて……あれは、本当の家族じゃない……。」
その言葉を聞いた瞬間、浩介の背後でギシリ、と床がきしんだ。
振り向くと、そこには母と父、そして“美咲”が立っていた。しかし、その表情は異常だった。笑っているのに、目が全く笑っていない。
「浩介、お前も家族にならないか?」
父の声は妙に低く、まるで別人のようだった。
浩介は咄嗟に美咲の手を引いて天井裏から飛び降りた。背後では不気味な笑い声が響き渡る。
二人は家を飛び出し、暗い夜道を必死に駆け抜けた。振り返ると、家の窓からこちらをじっと見つめる三つの影があった。
それ以来、浩介は二度と実家に戻らなかった。しかし、ある日、携帯に一通のメッセージが届いた。
「お前も家族にならないか?」
その送り主の名前は、母だった……。
浩介と美咲は、街の外れの小さなアパートに身を寄せていた。美咲は徐々に回復していったが、夜になると怯えた表情を見せた。
「浩介……あの家にいたのは、本当の家族じゃない。ずっと昔から、あそこには‘何か’がいたの。」
美咲は震えながら話し始めた。
「あの日、私が物置で古いアルバムを見つけたの。そこには、私たちの家族とそっくりな人たちが写っていた。でも、日付を見ると……昭和三十年って書いてあった。」
浩介は言葉を失った。
「つまり……それは、五十年以上前の写真ってことか?」
美咲は頷いた。
「でも、写真の中の人たちの顔は、今の父さんと母さんと全く同じだったの……。」
二人は沈黙したまま、じっと携帯の画面を見つめた。そこには、新しいメッセージが届いていた。
「帰っておいで。家族が待っているよ。」
その後、浩介と美咲は何度も引っ越したが、どこへ行っても‘家族’からのメッセージは止まらなかった。そして、ある夜、ドアの向こうから聞こえた。
「浩介、美咲……もう逃げられないよ。」

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