河童の誘い

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河童の誘い

河童の誘い

静かな村に住む高校生の翔太は、夏休みのある日、祖父の家に遊びに来ていた。祖父の家の近くには古い川が流れており、昔から「河童が住んでいる」と言われていた。

「翔太、その川には近づくなよ。」

祖父は厳しい表情でそう言った。しかし、翔太はその言い伝えを信じていなかった。

夜、涼しい風に誘われて翔太は川の方へと足を運んだ。月明かりが水面に反射し、静寂の中で虫の鳴き声が響いていた。その時、川の向こうから誰かの声が聞こえた。

「遊ぼうよ。」

翔太は驚いて辺りを見回した。そこには、小さな人影が立っていた。頭には皿のようなものがあり、背中には甲羅がある。それは……河童だった。

「お前……河童なのか?」

「うん、一緒に遊ぼう?」

河童はにこりと笑った。しかし、その笑顔にはどこか不気味なものがあった。

翔太は興味本位で河童についていくことにした。河童は川の奥へと翔太を誘い、だんだんと水深が深くなっていった。

「もっと奥に来てよ。」

河童の手が翔太の手を握った。ひんやりと冷たい感触に翔太は違和感を覚えたが、好奇心が勝っていた。

その時、突然強い力で川の底へと引きずり込まれた。

「うわあっ!」

翔太はもがいた。しかし、河童の力は想像以上に強かった。水の中で必死に抵抗するが、呼吸ができない。意識が薄れていく中、祖父の言葉が頭をよぎった。

「ああ、だから……。」

その瞬間、翔太は最後の力を振り絞り、河童の頭の皿に手を伸ばした。そして、力いっぱいその皿の水を払い落とした。

「あっ……!」

河童は驚き、力が抜けた。その隙に翔太は水面へと浮上し、必死に岸へと泳いだ。

ゼイゼイと息を整えながら振り返ると、河童は苦しそうに川の中へと沈んでいった。

それ以来、翔太は二度とその川へ近づくことはなかった。

しかし、ある夜、再び川の方から声が聞こえた。

「また、遊ぼうよ……。」

翔太は恐怖に震えながら、急いで部屋の窓を閉めた。

その後も、川の近くでは子供が行方不明になる事件が続いたという……。

ある日、翔太は村の老人たちが話しているのを耳にした。「昔からこの川には河童が住んでいるが、彼らはただのいたずら好きではない。子供を水の中に引きずり込む存在だ」と。ある老婆が語った。「若い頃、私の兄がこの川で遊んでいたが、ある日突然消えたんだよ。誰も彼を見つけることができなかった。」

翔太はその話を聞き、鳥肌が立った。自分もあのままだったら、今頃どうなっていただろう。河童の手に落ちた子供たちは、どこに行ったのか……。

ある晩、翔太はふと夢を見た。夢の中で、彼は再び川のほとりに立っていた。静寂の中、川の中から無数の手が伸び、彼を引きずり込もうとしていた。「遊ぼうよ……」子供たちの声が響く。そして、あの河童が現れ、笑っていた。

目を覚ました翔太は汗だくになっていた。窓の外を見ると、川の方にぼんやりとした影が見えた。恐怖に駆られながら、彼は布団をかぶり、震えながら朝を待った。

その後、翔太は祖父に川の伝説について詳しく尋ねた。祖父は深くため息をつきながら話し始めた。「河童は昔からこの村に住んでいた。彼らは悪意を持っているわけではないが、人間の魂を求めることがある。川に引き込まれた者は二度と戻らない。」

翔太は決して川に近づかないと誓ったが、それでも時々、川の方から聞こえる「遊ぼうよ……」という声に怯えるのだった。

そして、またある夏の日、新たな子供が川に近づいていくのが目撃された……。

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